東京高等裁判所 昭和52年(行コ)33号 判決 1982年11月24日
控訴人(被告) 東京営林局長 外一名
被控訴人(原告) 石原明 外三四名
主文
原判決を取り消す。
第一審原告近藤利夫を除く、その余の被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
第一審原告近藤利夫と控訴人甲府営林署長との間の懲戒処分取消請求訴訟は、昭和五一年七月七日右原告の死亡によつて終了した。
訴訟費用のうち、第一審原告近藤利夫と控訴人甲府営林署長との間に生じたものは亡近藤利夫訴訟承継人近藤貞美、同近藤光男及び同近藤圭子の負担とし、その余の被控訴人らと控訴人らとの間に生じたものは同被控訴人らの負担とする。
事実
控訴人らは主文第一項ないし第三項と同旨及び「訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は次のとおり訂正及び付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正及び付加)
原判決三枚目裏一二行目「林野庁」を「林野庁長官」と改め、同四枚目裏二行目「昭和四五年四月二〇日」の下に「各地方本部(以下「地本」という。)に対し」を加え、三、四行目「各地方本部(以下地本という。)」を削り、一一行目「予定どおり」の下に「始業時より午前一二時まで拠点部分」を加え、同五枚目表一行目「各営林局一営林署」を「林野庁も含め各営林局一営林署単位で全国二〇個所」と、同裏三、四行目「時間内」を「勤務時間内」と、五行目「職場復帰の命令等」を「解散及び職場復帰の業務命令等」と改め、同六枚目表五行目「集造材」の下に「の作業」を、同裏一、二行目「集造材」の下に「の作業」を加え、同八枚目表一二行目「職場復帰命令」の前に「解散及び」を加え、同一三枚目表六行目「一七・八パーセント」を「一七、八パーセント」と、同二一枚目裏一行目「対してくる以上」を「対応する以上」と改める。
(当審における主張)
一 被控訴人ら
1 官公労働者(国家公務員法、地方公務員法、公共企業体等労働関係法及び地方公営企業労働関係法の適用を受ける職員を総称する。)の争議権を否定又は制限する理由としては、その争議権の行使により「国民生活に重大な障害」をもたらすおそれがあることのみが唯一の理由であり、そのおそれがないときは争議権の否定又は制限は憲法上許されず、右労働者の「憲法上の地位の特殊性」「社会的経済的関係における地位の特殊性」などはその制約の理由とはなりえない。そして、その争議権の行使が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるか否かは、その争議権を行使する当該労働者が現に従事している職務の性質・内容が判断の基準となるところ、民間の鉄鋼・石油・電力等の基幹産業及び民間の林業と対比しても、国有林野事業の業務の争議行為による一時的な停廃は、国民生活に重大な障害をもたらすおそれはない。すなわち、
(一) 林業の特徴は、木材の再生産期間が長いことであり、植付けから伐採まで四〇~六〇年を必要とし、また、伐採などの収穫の時期も特定しておらず、林木の育成過程における労働集約度はきわめて低く、人為を加えない自然的成育に委ねられている面が大きいことにある。したがつて、林業においては、争議行為による業務の一時的停廃が造育林に影響する可能性は、仮にそれがあるとしても、その全過程のきわめて限局された部分にかぎられ、数十年先の収穫量に対する影響は皆無である。また、水源のかん養、土砂の流出・崩壊の防備その他の国土保全など森林法二五条一項各号所定の森林の公益機能に対し、争議行為が及ぼす影響もなく、むしろ、右の機能は伐採の規制その他の施業制限により、森林に対し人為を加えないことによつて保持されるものである。そして、災害等による崩壊地について必要な復旧的措置など緊急措置も、年を単位とする長期的計画によつて実施されているので、争議行為の及ぼす影響もない。
(二) また、我が国における木材の大半の需要先は建築用材であるが、その入荷の多少の停滞が国民生活に与える苦痛はほとんど取るに足りないものであり、木材の流通の確保・価格の安定のために争議行為を禁止する必要がないことは衣食のための生活必需物資についてもこのような方法が採られていないことに徴しても明白である。まして、我が国の木材の需要全体において、国有林野事業に従事する労働者の手によつて供給される生産量の占める割合はわずかである。
2 (一) 現業に従事する公務員の職務の性質・内容及び賃金その他の勤務条件の決定過程は、非現業に従事する公務員と比べてはるかに私企業の労働者に近く、勤務条件法定主義、財政民主主義は現業公務員の争議権、団体交渉権を制約する理由とはなりえない。そもそも、現業公務員は行政、司法等の国務に従事する官吏には含まれないので、憲法七三条四号の適用はなく、賃金その他の勤務条件に関する基準の設定については憲法二七条二項の適用を受けるものである。仮に右主張が理由がないとしても、公務員の勤務条件の一切について法律で定めなければならず、内閣その他の行政機関は国会からの授権・委任がなければその決定をすることができないという憲法上の要請はなく、憲法七三条四号は単に公務員の勤務条件等の「基準の設定」を立法事項としたものであり、その大綱の具体化や内容は労使の団体交渉や協定に委ねている趣旨であると解すべきである。
(二) 次に、公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)八条が定める団体交渉事項については、予算上の措置を採ることを要しないものもあるのみならず、予算上の措置を必要とするときは同法一六条、三五条により政府は協定等を国会に付議してその承認を受けなければならない。したがつて、予算上の措置を必要とする場合にかぎつて、団体交渉による勤務条件の決定権は国会の承認権と抵触し、後者が優越的地位を有するにすぎない。予算は、国会が国家内部的に、行政その他の国家機関の一会計年度の具体的行為を歳入及び歳出面から規律するものにしかすぎず、一般国民の行為を規律する効力はなく、勤労者の争議権その他の基本的人権を制約することはできない。現に、国民金融公庫・住宅金融公庫等政府が全額出資している公法人については、予算及び決算は国会の承認事項であるけれども、その職員の労働基本権はまつたく制限を受けていない。そもそも国会は、国政に関して絶対的な優越した権力をもつ機関ではなく、内閣その他の行政機関との間でも抑制均衡の原理が働き、行政は独立した固有の作用であり、ただ、国会による信任を基礎とし、立法や予算によつて権限の行使を制約されるにすぎない。その他、争議権の行使について、経済的な市場の抑制力が働かないという「社会的経済関係における公務員の地位の特殊性」や「全体の奉仕者性」は争議権の制限の根拠となしえないことは明らかである。
3 しかも、被控訴人らのうち、被控訴人石原明及び同青山義恵を除くその余の被控訴人らは定員外の作業員であるが、これら被控訴人らは国家公務員法附則一三条に基づく人事院規則八―一四「非常勤職員等の任用に関する特例」によつて雇用され、「常勤を要しない職員」とされているが、公労法四〇条一項一号は国家公務員法三条二項の適用除外を規定しているので、人事院は公労法の適用を受ける職員の任免について一般的な権限を有しないから、右人事院規則による任免は脱法的な運用というにほかならない。国有林野事業に勤務する定員外職員は、昭和四五年一〇月一日現在で七万八〇七七人もおり、同日現在の定員内の職員数三万九〇九一人をはるかに上回つており、これら定員外職員は伐木、造林などの基幹となる作業に常時従事している者であり、その勤務の実態は、法律上「恒常的に置く必要がある職に充てるべき常勤の職員」である定員内の職員となんら変りがない。しかし、その雇用期間は常用作業員、定期作業員については二か月であつて、それが更新されているにすぎず、臨時作業員は一か月毎の更新であり、これら作業員の賃金は日給で、かつ、多くは出来高払いであり、勤務時間、休暇、退職手当、共済組合の諸給付、公務員宿舎の入居などについて、定員内職員に比して不利益な取扱を受けている。そして定員外職員については、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法(以下「給特法」という。)五条の給与総額制の適用はなく、また、林野庁においては給与・賃金は定員内外の職員を通じて労働協約によつて定められているので四条所定の給与準則の定めもなく、定員外職員の賃金は国有林野事業特別会計の同事業費(項)のうち業務費(目)から支出されている。したがつて、国会の議決の拘束力は項までであるので、その議決を受けずに、定員外職員の賃金は同じ目に属する燃料油脂の購入費等と流用が可能であるので、右賃金の増加分は、右議決の拘束を受けずに、予算の範囲内の移流用でまかなわれるので、争議権、団体交渉権の制約について財政民主主義を根拠にすることはできない。
4 以上主張した理由により、官公労働者に対し争議権を一律かつ全面的に禁止する公労法一七条一項の規定は憲法二八条に違反して無効であり、仮にそうでないとしても、国有林野事業に従事する公務員、特に定員外職員の行う争議行為について公労法一七条一項を適用するのは憲法二八条に違反することになるので、右の適用は許されないものである。
5 ILO条約九八号は四条において「労働協約により雇用条件を規制する目的をもつて行う使用者又は使用者団体と労働者団体との間の自主的交渉のための手続の充分な発達及び利用を奨励し、且つ、促進するため、必要がある場合には、国内事情に適する措置を執らなければならない。」と定め、六条は「この条約は、公務員の地位を取り扱うものではなく、また、その権利又は分限に影響を及ぼすものと解してはならない。」と規定しているが、右の「公務員」とは「国の行政に従事する公務員」と解され、一九七一年の第一回公務員合同委員会の報告及び結社の自由委員会の基本判例においても同様に解釈されており、被控訴人ら現業公務員は右公務員には該当しない。したがつて、公労法一七条一項の争議行為の一律全面禁止の規定は右条約に違反し無効である。
6 また、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約八条一項(c)号は「労働組合が、法律で定める制限であつて国の安全若しくは公の秩序のため又は他の者の権利及び自由の保護のため民主的社会において必要なもの以外のいかなる制限も受けることなく、自由に活動する権利」の確保を規定し、同条二項の「公務員」は「国の行政に従事する公務員」と解されるので、公労法一七条一項は限定的に解釈しないかぎり、右規約に違反する。また右国際規約八条三項はILO条約八七号の優先性を定め「同条約に規定する保障を阻害するような方法により法律を適用することを許すものではない。」と規定しているので、公労法一七条一項は限定解釈しない限り同条約三条及び一一条に違反する。
7 なお、控訴人らの懲戒権の濫用について付言すると、本件懲戒処分は林野庁の労務担当者の発意に基づいて労務政策の一環として同庁で設定された統一基準を機械的一律的にあてはめてなされたものであつて、直接現場で労務の指揮監督の衝に当り、具体的個別的事情に通暁した懲戒権者の裁量によつてなされたものではない。
また、第一審原告近藤利夫は原審最終口頭弁論期日後の昭和五一年七月七日死亡しているが、本件懲戒処分取消訴訟は懲戒処分の違法性一般を訴訟物とし、その取消を求める形成訴訟であり、仮に、その訴訟要件として「その取消により回復すべき法律上の利益」を必要とするとしても、同人が右の違法な処分により受けた名誉、信用等に対する精神的損害は同人の死亡により消滅しないので、右損害の回復は右の法律上の利益に当たるので、本件訴訟は同人の相続人である妻近藤貞美、長男近藤光男及び長女近藤圭子によつて承継される。
二 控訴人ら
(本案前の抗弁)
第一審原告近藤利夫は昭和五一年七月七日死亡しており、同人の本件懲戒処分取消訴訟の追行権は一身専属的であり、かつ、同人の名誉、信用などに対する精神的損害は、仮に発生しているとしても、「法律上保護された利益」には当らないので、同人の死亡により、同人に関する本件訴訟は終了したものである。
(本案についての主張)
1 被控訴人らは、公労法二条二号の企業に勤務する一般職に属する公務員(以下「現業公務員」という。)であり、憲法二八条の勤労者には当たるが、公労法一七条一項により争議行為を行うことを禁止されている。同項において現業公務員等が争議行為を禁止されている理由は、単に「国民生活全体の共同利益の保障」という観点からのみではなく、公務員の勤務条件は憲法上、国民全体の意思を代表する国会において法律、予算の形で決定すべきであるとする勤務条件法定主義及び財政民主主義の原則に従う「公務員の憲法上の地位の特殊性」、勤務条件決定についての争議権等の行使に当つては、民間企業とは異つて市場による抑制力が働かないという「公務員の社会的、経済的関係における地位の特殊性」、公務員の実質的な使用者は国民全体であり、争議行為は、多かれ、少なかれ公務の停廃をもたらし、全勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがあるという「職務の公共性」及び公共企業体等労働委員会(以下「公労委」という。)による仲裁を中心とする「代償措置の整備」を、ひろくその理由とするものである。公務員は、勤労者であることから、当然に、憲法二八条の団体交渉その他の団体行動をする権利を、憲法上保障されているわけではなく、右規定と憲法七三条四号、八三条等の規定は同列の地位に置かれているものであり、公労法が現業公務員等が結成・加入する労働組合に対し、団体交渉権、労働協約締結権を与えたのは、立法に基づくものであつて、団体交渉権ひいては争議権を付与するかどうか、又はそれをどのように制限するかは国会の立法裁量の範囲内に属する当不当の問題である。したがつて、その裁量権の行使が一見して明白に違法不当なものでないかぎりは、裁量の結果としての法律は合憲有効なものであり、現業公務員等の争議行為を一律全面的に禁止した公労法一七条一項の規定は右の限度における国会の立法裁量に基づくものにほかならないので合憲有効なものである。のみならず、国有林野事業は、国有林野が国土全体に占める面積、位置、森林の蓄積量、水源かん養及び国土保全の機能、木材の生産、造林、林道建設その他の右事業が有する公益的及び経済的機能などに鑑みれば、その業務の停廃が国民生活及び国民全体の共同利益に及ぼす影響は明らかであり、しかも、被控訴人らが行つた本件争議行為は全国的規模で連続的に計画され、実施された争議行為の一環であるので、国民生活等に悪影響がなかつたと断定することは到底できない。そして、公務員の争議行為の禁止は前記のとおり、財政民主主義に表れている議会制民主主義の国政の基本原則を保持することに主眼があるのであり、公務員は国家公務員法上、服務の根本基準、法令遵守義務、職務専念義務等を課せられており、被控訴人らの行つた争議行為はこれらの義務違反になり、かつ、右義務違反は争議行為であるゆえをもつて正当化されるいわれはないので、その争議行為が国民生活に及ぼした影響如何は懲戒処分に当つての裁量について、ほとんど重要性をもたない。
2 被控訴人ら現業公務員は国家公務員法二条二項所定の一般職に属する職員であり、被控訴人石原明及び同青山義恵を除くその余の被控訴人らは人事院規則八―一四により任用された職員であるが、国家公務員法三条二項ないし四項は人事院の権限を包括的、一般的に宣言した規定にしかすぎず、人事院の具体的な権限はそれを定めた個々の法条に依拠するものであるから、公労法四〇条一項一号により国家公務員法三条二項ないし四項の適用が除外されたことによつて、直ちに人事院から現業公務員に対する人事行政権限を全面的に剥奪したものということはできず、公労法四〇条によつて、その適用を除外されていない国家公務員法の各規定に基づく個別的な権限は依然として人事院に属するものである。
右の被控訴人らが定員外職員とされている理由は、主としてその労働の季節的、自然的な制約や業務形態によるもので、その任用制度に違法な点はなく、また、定員外職員についても給特法三条の適用があり、かつ、財政処理についても国有林野事業特別会計法一一条により右事業予算を国会の審議に付さなければならず、その予算の範囲を超えて右職員の給与・賃金の決定をすることはできず、右のような法律や予算上の制約があるので、国会の議決を無視して自由にその給与・賃金を決定することはできず、林野庁当局の団体交渉についての当事者能力にも本来的な制約がある。
そして、現業公務員について、賃金その他の勤務条件を法令ではなく、団体交渉で決定しているのは憲法二八条の当然の要請ではなく、国会が同条の趣旨をできるだけ尊重しようとする立法裁量上の配慮から、財政民主主義の原則に基づき、その議決により財政に関する一定の事項の決定権を使用者である政府に委任したのにほかならないからである。なお、基幹作業職員制度発足に伴う予算措置については、財政法三三条に基づき、大蔵大臣の承認を受けて「基幹作業職員給与」なる目を設置し、他の目の経費を流用したものであつて、右予算措置は国会の意向と無関係ではなく、国会が財政及び公務員の勤務条件に関する一定事項の決定を政府に委ねた結果にほかならない。
3 我が国はILO条約九八号に調印、批准し、同条約六条の「公務員」の範囲について、公務員合同委員会第一回会議報告書や結社の自由委員会第一三九次報告書がこれを「国の行政に従事する公務員」と解釈する見解を示しているけれども、他方、公務員合同委員会第一回会議のための報告書の中には、「国の行政に直接従事している公務員及びこうした活動の補助的要素として働く低い地位の公務員」をいうという見解などもあり、必ずしも、被控訴人らの主張する見解が確定した見解ではなく、仮に被控訴人ら現業公務員が同条約六条の「公務員」に該当しないとしても、公労法は被控訴人らが結成・加入する労働組合に対し、賃金その他の勤務条件に関して団体交渉権及び労働協約締結権を保障する措置を採つているので、同条約四条に違反する点はない。
4 なお、本件懲戒処分は、前記のとおり、全林野中央本部の統一的な指令により全国一斉に二〇拠点個所で行われたほぼ同じ規模・態様の非違行為であるので、懲戒権者である各営林局長等は林野庁と協議し、職員に対する不平等、不公平な取扱がないよう期したものである。また、昭和四九、五〇年における懲戒処分に際して、争議行為の単純参加者に対し右処分を差し控えたのは、昭和四八年四月二七日の春闘の収拾に当つての労使関係の正常化を計る趣旨の七項目の合意、同年九月三日の公務員制度審議会の答申、同年一一月一六日のILO結社の自由委員会の同理事会に対する、制裁の適用に対する弾力的な態度を促した報告などを考慮したことによるものであり、懲戒権者が職員の非違行為に対しどのような態度で臨むかを決定するについて、当時の社会状勢、労使関係その他諸般の事情を考慮に入れることは、当然にその裁量に委ねられているので、本件懲戒処分には違法な点はない。
(当審で取調べた証拠)<省略>
理由
一 まず、控訴人らの本案前の抗弁について検討する。第一審原告近藤利夫が原審最終口頭弁論期日後である昭和五一年七月七日死亡したことは記録上明らかである。同原告に関する本件懲戒処分取消請求訴訟の訴訟物は、同人に対する懲戒処分の違法性一般であると解されるが、右処分の取消しを求める当事者は、行政事件訴訟法九条により、右取消しを求めるについて法律上の利益を訴訟要件として具備する必要があるところ、人事院規則一二―〇(職員の懲戒)四条は「戒告は、職員が法八十二条各号の一に該当する場合において、その責任を確認し、及びその将来を戒めるものとする。」と規定しているので、戒告は処分自体の直接的な効果として同原告に経済的な不利益や損害を与えるものではなく、また、同人は行政機関の職員の定員に関する法律の適用を受けない、定員外の一般職の公務員で、控訴人甲府営林署長が任用した常用作業員であつて、日給を受けている者であるが、同原告の昇給は、右控訴人の裁量に基づくその旨の意思表示を必要とし、同原告の当然の権利とは認められないうえ、原審における被控訴人氏原今朝吉本人尋問の結果によれば、常用作業員については、戒告を受けても、昇給延伸の措置は採られていないことが認められる。そして、第一審原告近藤利夫が、仮に戒告により同人の名誉、信用などに対する精神的損害を被つたとしても、右の利益は一身専属的なもので、同原告が現に公務員の地位を有しているかぎり、仮にそうではないとしても生存しているかぎりにおいて法律上の利益と評価しうるものである。そうだとすると、同原告の死亡により、同人に関する本件懲戒処分取消請求訴訟は訴えの利益を欠缺することとなり、同人の相続人らによりこれを承継して追行する必要があるとは認められないので、同原告に関する右訴訟は同原告の死亡により終了したものというべきである。
二 以下、その余の被控訴人らの本案に関する主張について逐一検討する。
1 請求原因一及び二の各事実は当事者間に争いがなく、抗弁一ないし三の各事実、同四の1ないし3の事実、5及び6のうち、全林野がそれぞれ記載の日に各地本に対しそれぞれ記載の内容のストライキ指令を出したこと、7の事実、同五のうち、控訴人署長が再三に亘り解散及び職場復帰の業務命令を出したとの点を除くその余の事実、同六のうち1の事実、2中、控訴人署長が数次に亘り解散及び職場復帰の業務命令を発したとの点及び被控訴人ら各自の職場放棄の時間を除くその余の事実、七のうち、控訴人局長が被控訴人石原明及び同青山義恵に対し、控訴人署長がその余の被控訴人らに対し、被控訴人らの行為は国家公務員法八二条各号に該当するものとし、昭和四五年七月四日付で本件懲戒処分を行つたことは、いずれも当事者間に争いがない。
2 そこで被控訴人らの原審での主張一について判断する。
(一) 被控訴人らは、林野庁所轄の甲府営林署管内の国有林野事業に勤務している一般職に属する国家公務員(以下、「現業公務員」という。)であり、公労法二条二項の職員として、同法一七条一項の適用を受けるものである。同項は「職員及び組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。」と規定しているが、右一七条一項が憲法二八条に違反しないことは最高裁判所昭和四四年(あ)第二五七一号事件同五二年五月四日大法廷判決(刑集三一巻三号一八二頁)が詳細に説示するとおりであり、その理由を被控訴人ら現業公務員に即して判示すれば、(1)現業公務員は、財政民主主義に表れている議会制民主主義の原則により、その勤務条件の決定に関し国会の直接又は間接の判断を待たざるをえない特殊の地位に置かれていること、(2)そのため、被控訴人らは、労使による勤務条件の共同決定を内容とするような団体交渉権ひいては争議権を憲法上当然には主張することのできない立場にあること、(3)現業公務員は、その争議行為により適正な勤務条件を決定しうるような勤務上の関係にはなく、かつ、その職務は公共性を有するので、全勤労者を含めた国民全体の共同利益の保障という見地からその争議行為を禁止しても、憲法二八条に違反するものとはいえないことになる。
(二) なるほど、被控訴人らの主張するとおり、憲法二八条は、同法二五条を基本理念として勤労者の経済的地位の向上を目的とした規定であり、被控訴人ら現業公務員も同法二八条の勤労者に該当することは認められるが、同条は憲法の他の規定に対して絶対的な優越性をもつた規定ではなく、同法一五条、四一条、七三条四号、八三条等の各規定をも考慮して、憲法の定める政治及び行政の組織及び運営、国民全体に対する公務員の社会的、経済的及び行政制度上の地位、国民及び公務員の人権保障等を彼此総合して、憲法秩序全体の枠組の中で位置付けなければならない。
したがつて、被控訴人らの、「憲法二八条によれば、当該職務の一時的な停廃によつても、公衆に対して受忍の限度を超えた苦痛ないし障害を直ちに与える場合にかぎつて、はじめて規制を考慮することができ、その場合であつても、その規制は手段、方法において必要最小限度に止めなければならず、個別制限によつてその目的を達しえない場合にかぎつて、全面一律禁止の方法による規制が許され、かつ、その規制がやむをえない場合であつても、これに見合う代償措置が講じられなければならない」とする趣旨の主張は、独自の見解というほかなく、到底採用することはできない。
(三) 被控訴人らは、三公社五現業の業務は多種多様であり、その中でも国有林野事業については、争議行為によつて国民生活に重大な障害をもたらされるおそれは全くない旨主張する。ところで、公労法一七条一項が、現業公務員等の争議行為を禁止した趣旨は、単に国民全体の共同利益の保障の目的だけではないことは前説示のとおりであるが、成立に争いがない乙第一号証及び原審証人桜下文男の証言によれば、昭和四四年四月一日現在において林野庁所轄の国有林及び官行造林地の合計面積は約七八四万六〇〇〇ヘクタールで国土全体の二一パーセントを占め、国有林の蓄積量は約八億七六〇〇万立方メートルで、日本の森林資源の四六パーセントを占めており、しかも脊梁山脈地帯に多く存在し、国有林を適正な業務計画のもとに管理し、国土の保全、水源のかん養、国民の保健・休養、自然保護などの森林の有する公益的機能を確保しながら、森林資源の培養及び森林生産力の向上に努めるとともに、木材等重要な林産物を持続的に供給して林産物の需要及び価格の安定に資する必要があるのみでなく、災害時などにおいて臨時的な木材の供給をなす責務があり、その業務運営の如何が国民生活に重大な影響を及ぼすことは明らかである。もつとも、成立に争がない甲第一五号証の八、九、第一六号証の五、第六六号証及び原審証人川合勇及び同木下勝平の各証言によれば、昭和四五年の日本における用材総供給量約一億〇二六七万九〇〇〇立方メートルのうちその五五パーセントは外材でもつて調達され、国有林からの供給量は一四・四パーセントであり、昭和四五年度において国有林野事業における立木販売の割合は約六〇パーセントであり、製品(木材)生産のうちでも二〇パーセント位は民間業者に請負わせ、造林についての地拵・植付・下刈の各作業においても請負の比率が直ようよりも大きく、また、林道の建設などについて請負の割合が大きいことは認められるけれども、成立に争いがない甲第五七号証の四、原審証人鈴木三郎の証言及び弁論の全趣旨によれば、国有林野事業は、農林大臣がたてる全国森林計画に即して、林野庁長官が五年毎にたてる経営基本計画、同様に五年毎に各営林局長がたてる地域施業計画に基づいて、各営林署単位の業務計画、年及び月毎の予定簿に従つて国有林野の配置、成育状況、全国及び各地方の経済状勢等を考慮しながら計画的に運営されるものであり、民間業者の各種作業の請負も、契約及び施工を通じて林野庁所属の関係職員の計画及び監督のもとになされているものであり、また、直ようの作業が同事業において、質的にも、量的にも重要性が少ないとは決していえないことが認められる。しかも、同盟罷業その他の争議行為は、一般に、労働組合の指揮及び指導のもとに、その組合員である労働者が使用者に対し、本来の労務の提供を集団的に拒絶する行為であるから、その規模・態様の如何にかかわらず、被控訴人ら現業公務員による争議行為が多かれ少かれ公務の停廃をもたらし、その停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは疑いをいれないところである。そして、林木については植付から伐採までの再生産期間が農作物と比較して長いことは経験則上明らかではあるけれども、前掲鈴木証言及び弁論の全趣旨によれば、林木の苗の蒔付の時期は春、苗木の植付は三月下旬から四月、下刈は六月から八月が適当な時期であつて、その作業に季節的な制約があることが認められる。そうだとすれば被控訴人らの右主張も採用することができない。(なお、付言すると、公労法は、現業公務員等に対し、争議行為を禁止した代償措置として、労使の間に発生した紛争解決について、あつせん、調停、仲裁を行うための機関として公労委を設置し、その三五条において「委員会の裁定に対しては、当事者は、双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならず、また、政府は、当該裁定が実施されるように、できる限り努力しなければならない。」と規定している。もつとも、同条但書においては「ただし、公共企業体等の予算上又は資金上、不可能な資金の支出を内容とする裁定については、第一六条の定めるところによる。」と規定し、政府はこのような裁定がなされた後、原則として、一〇日以内に国会に右裁定を付議して、その承認を求めなければならず、その承認がないかぎりはいかなる資金の支出もしてはならない拘束を受け、その最終的な諾否の決定は国会の権限に属するけれども、国の歳出はすべて予算に編入し国会の議決を経たうえでなければ、政府は資金の支出ができず、現業公務員等の憲法二八条の団体交渉権その他の団体行動権も、前説示のとおり、財政民主主義の制約に服するものであるので、労使間に成立した協定や仲裁委員会の裁定が国会の意思の如何にかかわらず、無条件に絶対的な効力を有するとの憲法上の要請はないことを考慮すると、右の代償措置の整備は不十分であるとも、また、職員の生存権擁護のための配慮に欠けているとも認めることはできない。)
(四) 次に、被控訴人らは立法目的の合理性その他の立法事実が存在しないかぎりは基本的人権の規制は違憲であると主張する。しかし、現業公務員等の争議行為を禁止する公労法一七条一項の規定は、前説示のとおり、現業公務員等の憲法上の地位の特殊性などの理由に基づいて定められたものであるから違憲な規定ではないうえ、また、現業公務員が争議行為を禁止されたのは、戦後においては、連合国最高司令官の書簡に基づいて昭和二三年七月三一日に制定、施行された政令第二〇一号の規定からではあるが、現業公務員等が、現在、争議行為を行うことを禁止されているのは、単に右書簡を唯一の根拠とするものではないことは明らかであり、現業公務員等及びその労働組合に対し、団体交渉権、争議権を付与するかどうか、また、どのように付与したり又は制限するかは、国の社会的経済的状勢、労働事情その他諸般の事情を総合して決定する国会の立法裁量に委ねられており、国会が一見して明白に著しく右裁量を誤つたと認めるに足りる証拠はないので、公労法一七条一項の規定に違憲の点はないので、被控訴人らの右主張も採用することはできない。
3 次に、被控訴人らの原審での主張二について検討する。
被控訴人ら現業公務員が争議行為を行うことを禁止されているのは、前説示のとおり単に右争議行為が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるという理由だけではなく、ひろく現業公務員の憲法上の特殊な地位などの理由に基づくものであるのみでなく、前項の(三)で認定及び説示したとおり、被控訴人ら国有林野事業に勤務する現業公務員の争議行為が、国民全体の共同利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは明らかである。水源かん養、土砂の流出・崩壊の防備などの国土保全、その他諸種の公益的機能がなんら人為を施さずに保持されるものでないこと、造林が人為を加えずに、自然的成育に委されるものでないことは、社会経験則上明らかであり、我が国の用材総供給量のうちの国有林からの供給量の占める比率、立木販売の割合、製品生産のうちの直ようの占める比率、林道の建設等について民間業者の請負の割合が大きいことなどが前記の判断に消長を及ぼすものではないことは前項の(三)で説示したとおりであり、また、民有林の治山事業に支出される経費が、国有林野治山事業費よりも多額であることなどの被控訴人らの主張も右の判断を左右することはできない。そして、被控訴人ら現業公務員は、定員内及び定員外職員の区分を問わず、国家公務員法二条二項の一般職に属する国家公務員であつて、公労法二条二項二号の職員であり、同法一七条一項の適用があることも明らかである。
なお、成立に争いがない甲第四七号証、第四八号証の一ないし五、第五七号証の四、第六四号証、第六七号証の一、二、第六八号証、原本及びその成立に争いがない同第七二号証、原審証人桜下文男及び当審証人木村武の各証言によれば、被控訴人らのうち常用作業員は、一二か月をこえて継続して勤務する必要があり、かつ、その見込があることなど、定期作業員は毎年同一時季に六か月以上継続して勤務することを例とする必要があり、かつ、その見込があることなど、臨時作業員は臨時に勤務する必要があることなどをそれぞれ雇用基準として任用される定員外職員であり、前二者は二か月の期間を定めて任用され、その必要があるときは任用期間は二か月毎に更新されるものであり、臨時作業員である被控訴人青山正雄は一か月の期間を定めて任用され、その必要があるときは一か月毎に更新されるものであること、定員外職員は「国有林野事業作業員就業規則」「国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協約」等の適用を受け、賃金は日給であり、伐木、集運材、造林等の作業に従事するときは全部又は一部出来高払となつており、その予算面においては国有林野事業特別会計の国有林野事業費の項中業務費の目から支出され、かつ、勤務時間、休暇などの労働条件について定員内職員との格差があること、しかし、反面、国有林野事業には特有の季節的要因が働くところから、冬期は労働需要が少なく、春及び夏期には繁忙であり年間を通じて均等な雇用量の確保は困難であり、また、労務の性質・内容からその効率的な運用を計るためには出来高給の維持は避け難いことが認められる。公労法は、八条において現業公務員等の賃金その他の給与、労働時間、休憩など各号所定の事項を労使の間の団体交渉の対象事項とし、原則として協定又は仲裁委員会の裁定により決定する旨定めているところから、四〇条一、二項において現業公務員に関しては、その職務と責任の特殊性に基づいて、国家公務員法附則一三条に定める同法の特例を定める趣旨で、同法三条二項から四項までその他主として人事院の職務・権限の一部に関する規定の適用除外を定めているけれども、同法の分限、懲戒及び服務に関する規定の大半は現業公務員に適用があり、これらの立法措置は国会の裁量に委ねられており、なんら違憲の点がないことは前説示のとおりである。
したがつて、国有林労働者に対し公労法一七条一項を適用することは憲法二八条に違反するとの被控訴人らの主張も採用することができない。
4 被控訴人らの原審での主張三について検討する。
公労法一七条一項の制定の理由が、単に国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるために争議行為を禁止するだけのものではないことは前説示のとおりであるが、以下、被控訴人らの行つた本件争議行為の態様・経過等についてみてみる。
前記1の当事者間に争いがない事実に、成立に争いがない甲第一号証、第二及び第三号証の各一・二、第四号証、第四七号証、乙第四号証、第七ないし第九号証、第一〇号証の一ないし三三、昭和四五年四月三〇日に本件争議行為の現場を撮影した写真であることに争いがない同第一一号証の一ないし一〇、原審証人伊藤嘉太郎の証言により成立を認めうる甲第五号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる同第六、七号証、右伊藤証言、原審証人木下勝平、同保坂住男、同鈴木三郎、同桜下文男の各証言、原審における検証の結果に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 本件争議行為は被控訴人ら林野庁に所属する職員の賃金引上げを目的として行われたものである。
(二) 被控訴人石原明及び同青山義恵は、行政機関の定員に関する法律(以下「定員法」という。)の適用を受ける定員内の職員であり、その基準内給与については「月給制職員の基準内給与に関する協約」で定められ、その余の被控訴人らは、定員法の適用を受けない定員外職員であり、その賃金については「国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協約」で定められている。
(三) 全林野は、昭和四五年三月一四日に林野庁長官に対し、昭和四五年度の月給制職員の基本給を平均月額一万三〇〇〇円引き上げること、及び日給制職員の基本賃金を全職種一律に日額一一〇〇円引き上げることを内容とする各要求書を提出し、その理由として原判決の原告らの主張三3(四)に掲げる内容を記載した。
(四) 全林野は、同日以後林野庁当局と数回に亘り連続して団体交渉をもつたが、当局側は、職員の給与・賃金は鉄鋼・私鉄などの民間賃金、日本経済の動向等の諸事情をみて決めなければならないが、民間賃金の動向等が現段階では正確に把握できず、また、他の公社・現業の動きも加味して考える必要があるとして回答を留保していたが、昭和四五年四月二七日の第七回の団体交渉の席上、当局側は、国有林野事業の経営の実情は悪化の傾向を強めつつあり、組合の主張する大幅な賃金引上げには到底応じることはできないが、職員の処遇の改善を考慮し、かつ、職員の積極的な協力を得て各種の合理化による生産性の向上及び経費の節減を計りつつ、基準内賃金の改定を行いたいとして、引上げ額は昭和四四年の新賃金仲裁裁定によつて示された、月給制職員について平均月額四七七七円、日給制職員について平均日額二〇八円の回答をした。全林野は、当局側がはじめて有額回答をしたことは高く評価したけれども、鉄鋼その他の民間企業が前年を上回る引上げ額を回答しているところから、当局側に引上げ額の再考を求めて同日午後及び翌二八日にも団体交渉を行ったが、当局側は組合側に対して、現段階では前記の引上げ額が限度であるので、それを了承するよう求めることで話合はほぼ終始した。
(五) そこで、全林野執行委員長は、同年四月二八日各地本委員長に対し、四月三〇日始業時より午前一二時まで拠点部分ストライキに突入するよう命じる指令を発した。
(六) 同月二九日も二回に亘つて団体交渉を行つたが、当局側は前年の引上げ額を上回る回答はできないという返答で、話合は進展せず、なお検討を続けるということで続行されていたところ、同月三〇日午前七時三〇分ころ、当局側は組合側に対し、組合が争議行為を行わないことを条件として、各民間企業が前年を上回る回答を出しているから、それらの動向を配慮して、公労委の調停委員会において実質的な解決ができるよう対処する考えであること、日給制職員の賃金についても、一〇確認(昭和四一年一二月一日付全林野第五八号の日給制賃金引上げ要求に関する団体交渉において論議した要旨の集約)の趣旨を尊重して誠意をもつて努力する考えであることを内容とする非公式な回答をした。そこで、全林野は直ちに中央本部で右の回答について検討した結果、右回答の趣旨を尊重して公労委に調停を申請することを決め、同日午前九時六分に、中央執行委員長は各地本委員長宛にストライキ中止の指令を発した。
(七) 東京営林局管内においては、甲府営林署が拠点として選択され、東京地本から書記長訴外木下勝平外二名が集合場所に来て争議行為を指揮し、第一審原告近藤利夫を含む被控訴人ら三三名がこれに参加したが、その態様は次のとおりである。
(1) 被控訴人らの集合場所は、山梨県南巨摩郡南部町上佐野国有林一二六班の中であり、国鉄身延線内船駅から東北方に約二〇キロメートル離れた、佐野川べりの山間の平坦地で、上佐野部落のはずれに当たる所である。被控訴人ら組合員は同日午前七時二〇分ころから右場所に集合し、午前七時三〇分ころ前記の地本派遣の組合員がストライキ突入の宣言をし、「大巾賃上げを勝ちとろう 月給制一三〇〇〇円 日給制一一〇〇円」と書いた幕を竹竿二本を支柱として立て、前記派遣組合員らが演説をしたりしたが、被控訴人らは解散時に起立して挙手しシユプレヒコールを唱えたほかは、おおむね、右集合場所又は当日は寒い日だつたのでそこから約三〇メートル離れた窪地に移動して集つて、うずくまつたり、座つたりして約二時間を過し、特段に喧騒に亘る行為もなく、また、なんらの暴力行為も行われていない。
(2) 当局側の甲府営林署事業課長鈴木三郎ら数名も右集合場所に来ていたが、午前七時三七分ころ鈴木らは被控訴人らの面前に立つて、直ちに解散することを口頭で要求するとともに、控訴人署長作成名義の「解散要求、職場大会の責任者および参加者の皆さんへ 先に警告したとおり勤務時間内にわたつて無許可の職場大会を継続することは業務の正常な運営を阻害する行為であるから直ちに解散されたい。」と記載したプラカードを示し、また、午前七時四七分ころ鈴木らは、被控訴人らに対し直ちに職場に復帰することを命じるとともに、同控訴人作成名義の「業務命令 現在行われている無許可の職場大会に参加している職員は、直ちにそれぞれの職場に復帰されたい。」と記載したプラカードを持つて回つて示し、各人に「直ちに職務に従事することを命ずる。」旨の同控訴人作成名義の各被控訴人宛の業務命令書を手渡そうとしたが、被控訴人らはそれを受け取らなかつた。
(3) 被控訴人らは、右争議行為を行うに当つて東京地本との連絡員一人を上佐野部落に置いていたが、右連絡員が午前九時二〇分ころ集合場所に帰つて来て、前記のストライキ中止指令が出たことを伝達し、被控訴人らは午前九時三三分ころ解散し、間もなくそれぞれの職場に帰つたこと。
(4) 林野庁当局は、甲府営林署が争議行為の拠点に選ばれた旨の情報を、同月二八日入手し、林野庁長官作成名義の「職員の皆さんへ 全林野労働組合は四月三〇日に違法行為を計画している模様ですが、職員の皆さんは国家公務員としての自覚にもとづき、このような計画には絶対参加しないよう格段の自覚を要望します。」と記載した同日付のビラを甲府営林署庁舎内の掲示板に掲示していた。
以上の諸事実によれば、本件争議行為は、全林野の指令により、東京地本の指揮のもとに、甲府営林署(定員外職員を含めて職員一四三名)管内の生産・造林・植付等の現場作業に従事する定員内職員二名、定員外職員三一名が、使用者である国(所管庁林野庁)に対し、給与・賃金の引上げを要求して二時間余りに亘つて職場から離れて、労働の提供を集団的に拒絶し、それぞれが担当する作業に就労しなかつたものであることが明らかであるので、右争議行為は公労法一七条一項所定の「同盟罷業」に該当するものというべきである。
もつとも、原審における被控訴人氏原今朝吉本人尋問の結果及び原裁判所の調査嘱託に対する甲府営林署長の昭和四九年九月四日付回答書によれば、昭和四五年度の内船(片房沢)製品事業所及び南部担当区事務所の集材、伐木及び植付等の作業は、ほぼ業務計画に適合した実行がなされ、鉄骨盤台撤去の作業も予定期間である一週間内に遅滞なく終了し、また同盤台には常時一日分の伐木材が積載されていたので、当日のトラツクによる運材作業についても争議行為による影響はほとんどなかつたことは認められるけれども、社会経験則上、被控訴人らの不就労によるその間の業務の遅れは明らかであり、その遅れはその後の労働密度の集約などにより修復されたものと推認されるのみならず、前掲被控訴人氏原本人の供述によれば、伐木及び集材等の製品生産作業は一人の班長の指示・監督のもとに六人の職員一組で行われていることが認められるので、被控訴人らの不就労は単に各自が担当する作業のその間の停廃にとどまらず、他の就労している職員の作業にも多かれ少なかれ影響を及ぼして全体として作業効率を低下させたとも窺える。そうだとすれば、昭和四五年度の業務計画が達成されたことや当日の運材に影響がなかつたこと、その他事業計画は争議行為以外の諸条件の変化により、しばしば不実行、遅延となつて変更されることなど被控訴人らが主張する諸事情は、前記の結論を左右することはできない。
なお、公労法一七条一項は被控訴人ら現業公務員の争議行為を全面的に禁止しているので、それが法律上許される場合があることを前提として、争議行為の目的、動機、手段、態様の相当性、暴力行為を伴わなかつた等の諸事情によつて、右争議行為が「同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為」に該当しないと認定することは許されないし、また、法律上正当な行為であると認めることもできないと考えられる。
よつて、本件争議行為は公労法一七条一項の禁止する争議行為に当らないとする被控訴人らの主張も採用することができない。
5 次に、被控訴人らの原審での主張四について検討する。
(一) まず、1の主張について判断する。被控訴人ら現業公務員が国家公務員法八二条、八三条、八四条一項、人事院規則一二―〇(職員の懲戒)の各規定の適用を受けることは公労法四〇条一項が右の国家公務員法の各規定の適用除外をしていないことから明らかである。そして、公労法一七条一項の立法趣旨が、被控訴人ら主張のように単に「国民生活全体の利益」の保護のみではないことは前説示のとおりであり、また、被控訴人ら現業公務員は、右規定により争議行為を行うことを全面的に禁止されているので、それを法律上禁止されていない一般私企業の労働者と異つて、現業公務員が争議行為を行つても、法律上許される場合があることを前提として、その目的・動機・手段・態様の相当性などを吟味して違法性の有無を判断することができないことも前説示のとおりである。
被控訴人ら現業公務員は、服務の根本基準を定めた国家公務員法九六条一項、法令及び上司の命令に従う義務を定めた同法九八条一項、職務に専念する義務を定めた同法一〇一条の各規定の適用を受けることも明らかであり、前認定のとおり、被控訴人らは林野庁長官の争議行為に参加しないよう要望した事前の警告にもかかわらず、昭和四五年四月三〇日午前七時三〇分の始業時から二時間余りに亘つて、職場から離れて所定の職務に従事せず、その間上司である控訴人署長の解散要求及び職場復帰を命じる業務命令にも従わなかつたものであるから、被控訴人らの右行為は前記の国家公務員法の各規定に違反し、かつ、職場秩序及び服務規律を乱すものであり、同法八二条一、二号に該当するというべきである。したがつて、被控訴人らが行つた争議行為は、単に「国民生活全体の利益」との関係においてのみ違法であるとの被控訴人らの主張は到底採用することができないし、また、被控訴人らの右行為が前記の懲戒事由に該当しないというためには、被控訴人ら現業公務員において争議行為を行うことが許される場合があることが前提要件となると考えられるが、現業公務員の争議行為は全面的に禁止されているので、前記の前提要件を欠くので、このような判断に立ち入ることもできない。
なお、現業公務員について国家公務員法九八条二、三項が適用除外されているのは、ほぼ同じ趣旨の公労法一七条一項、一八条が適用されるためであつて、主として、立法技術上の措置であると解され、被控訴人ら主張のように同法一七条一項に違反し「国民生活全体の利益」を害するに至らしめた職員を、特に同法一八条によつて解雇する権限を、使用者である国に対し与えたものと解すべきではないし、また、同法一七条一項により禁止されている争議行為が、国家公務員法八二条各号所定の同法又は同法に基づく命令違反、職務上の義務違反又は職務を怠つた場合などにそれぞれ該当するときは、同条所定の免職その他の懲戒処分をすることができると解され、同法八二条以下の懲戒に関する規定と公労法一七条一項、一八条は一般法特別法の関係ではなく、現業公務員に対し両者は併存的に適用されるものと解すべきである。
(二) 次に、2及び3の主張について判断する。
争議行為は、一般に、労働組合の指揮のもとに、使用者に対し組合員である労働者が労務の提供を全面的又は部分的に拒絶する集団的行為であるとはいえるが、その争議行為中においても、被控訴人ら個々の現業公務員と使用者である国との間の個別的な任用又は雇用上の権利義務の法律関係は継続して存在し、ただ、仮に現業公務員が争議行為を行うことが法律上許される場合があるとすれば、その目的・手段等が相当なかぎりにおいて、現業公務員の個々の行為は法令違反や職務上の義務違反などの懲戒事由に該当しないというにすぎない。しかし、現業公務員は公労法一七条一項により争議行為を行うことを全面的に禁止されているので、その前提要件を欠如し、争議行為の目的・手段等の相当性の吟味にまで立ち入つて、その違法性の有無の判断をすることができないことは前説示のとおりである。
したがつて、争議行為中は、組合員の労働力はすべて労働組合の統轄下にあり、個々の公務員と国との間の任用又は雇用上の権利義務関係が断絶するかのような被控訴人らの主張及び争議行為に関連する法律関係はすべて労働組合に帰一し、被控訴人ら個々の組合員はなんら国家公務員法上の責任を個別的には問われない旨の被控訴人らの主張は理由がないというべきである。
よつて、本件争議行為に国家公務員法八二条の懲戒規定を適用することは違法であるとの被控訴人らの主張も採用することができない。
6 被控訴人らの原審における主張五について検討する。控訴人局長が被控訴人石原明及び同青山義恵に対し、控訴人署長がその余の被控訴人らに対し、被控訴人らの本件争議行為に参加した行為がそれぞれ国家公務員法八二条各号に該当するとして戒告する旨の懲戒処分をしたことは当事者に争いがなく、被控訴人らの右行為が同条一、二号に該当することは前項に説示のとおりである。本件争議行為に至るまでに、全林野と林野庁当局との職員の給与・賃金引上げに関する団体交渉が妥結しなかつたことは前記4の(四)及び(六)で認定のとおりである。ところで、成立に争いがない乙第三七号証及び原審証人桜下文男の証言によれば、昭和四五年度の国有林野事業特別会計は、製品(木材)価格の低迷・人権費の増大等の原因により損失の発生が見込まれ、経営の困難が予想されたところから、林野庁当局としても職員の給与・賃金の引上げには慎重にならざるをえなかつた事情も認められ、また、前記認定のとおり、右団体交渉は話合は進展しなかつたけれども、なお検討を続けるということで続行されていたものである。そして、林野庁当局が故意に回答を遅らせたり、交渉を引き延したり、また、全林野の弱体化を狙つて、ストライキに突入させたうえ、単純参加者である被控訴人らを懲戒処分に付したと認めるに足りる証拠はない。そうだとすれば、被控訴人らに対する本件懲戒処分は不当労働行為意思に基づいたものとは認められないので、右処分は不当労働行為であるとの被控訴人らの主張も採用することができない。
7 被控訴人らの原審での主張六について検討する。
(一) 本件争議行為は、全林野の指令に基づき、林野庁を含めて各営林局一営林署単位で全国二〇個所において、約四八〇人が参加しておよそ一時間ないし四時間に亘つて行われた拠点部分ストライキの一環であり、東京地本の指揮により甲府営林署管内において定員内二名、定員外三一名の製品生産、造林及び植付などの現場作業に従事するところの被控訴人ら現業公務員が約二時間余りに亘つて職場から離れて前認定の集合場所に集合し所定の労務に従事しなかつたものである。そして、使用者側である林野庁当局も、四月二九日の団体交渉では話合は進展しなかつたものの、なお検討を続けるということで交渉は続行されていたものであり、昭和四五年度の国有林野事業特別会計は損失の発生が見込まれ、林野庁当局も職員の給与・賃金の引上げに慎重にならざるをえなかつた事情にあつたこと、当局側が故意に回答を遅らせたり、交渉を引き延したり、また、全林野の弱体化を狙つてストライキに突入させたうえ、単純参加者である被控訴人らを懲戒処分に付したとは認められないことは前記認定及び説示のとおりである。
(二) そうだとすると、昭和四五年四月三〇日に全林野が行つたストライキの規模・態様・影響、本件争議行為の規模・態様・影響、それがストライキ全体に対して有する関連・役割、前記(一)の説示に加えて、4の(一)ないし(六)に認定の団体交渉の経過に照らして、団体交渉の妥結が遅れたことについて、林野庁当局に責められるべき非があるとは認められないことなどを考慮すると、被控訴人らが本件争議行為の単純参加者にすぎないこと、右争議行為は人里を離れた山間で行われ、格別喧騒に亘る行為もなく、暴力行為を伴つたものでもないこと、昭和四五年度の内船(片房沢)製品事業所及び南部担当区事務所の集材、伐木及び植付の作業はほぼ業務計画に適合した実行がなされたことなどの諸事情をしん酌しても、被控訴人らの国家公務員法違反及び職務上の義務違反などの同法八二条一、二号該当の行為は、国家公務員全体の秩序及び服務規律を保持する観点からみて、懲戒処分を不問に付するに値するほど軽々しいものとは考えられない。もつとも、成立に争いがない甲第四九号証、原審証人河合勇、原審における被控訴人氏原今朝吉及び同石原明各本人尋問の結果によれば、昭和四八年から同五〇年春ころまでに行われた争議行為に対する昭和四九年一月二六日付及び同五〇年六月四日付の懲戒処分の際には、単純参加者に対してはなんらの処分もなされなかつたことが認められるが、右は本件懲戒処分後の事情であるうえ、成立に争いがない甲第七四、第七五号証、原審証人伊藤嘉太郎の証言及び弁論の全趣旨によれば、その理由は、昭和四八年の春闘の収拾に当つて、同年四月二七日政府と春闘共闘委員会とは「労働基本権問題については、第三次公務員制度審議会において今日の実情に即して速やかな結論が出されることを期待するとともに、答申が出された場合はこれを尊重する。政府は労使関係の正常化に努力する。」など七項目の合意を行つたこと、同年九月三日「公労使各側委員とも、わが国の公共部門における労使関係の実情を現状のまま放置すべきではなく、労使の相互不信感を排除し、労使関係の正常化を図り、節度ある労使慣行を確立することが急務であること」などの基本認識に立つて「答申の趣旨にのつとり、労使関係の改善のために、労使はもとより政府としても最大の努力を払うべきものと考える」として公務員の争議権などについて第三次公務員制度審議会長答申「国家公務員、地方公務員及び公共企業体の職員の労働関係の基本に関する事項について」が内閣総理大臣宛に提出されたこと、ILO結社の自由委員会は昭和四八年一一月一六日第一三九次報告三三二において「懲戒処分の問題に関しては、委員会は、従前に述べたこと、すなわち、制裁の適用に対する弾力的な態度は、労使関係の調和的な発展に一層資するものであるということを繰り返すのみであり、制裁の適用に関して、特にストライキ参加に対する制裁の適用から生ずる報酬上の恒久的な不利益及び関係労働者のキヤリアに対する不利益な結果について政府に示唆したことを想起することを理事会に勧告する。」との勧告をし、当時、政府としても、争議行為に対する懲戒処分については弾力的な運用をして、労使関係の正常化を計る必要があつたことによるものと認められる。
(三) なお、最高裁判所昭和三九年(あ)第二九六号事件同四一年一〇月二六日大法廷判決(刑集二〇巻八号九〇一頁)、最高裁判所昭和四一年(あ)第四〇一号事件同四四年四月二日大法廷判決(刑集二三巻五号三〇五頁)、最高裁判所昭和四一年(あ)第一一二九号事件同四四年四月二日大法廷判決(刑集二三巻五号六八五頁)は、いずれも基本的には勤労者の争議権等の労働基本権は「国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を当然の内在的制約として内包しているものと解釈しなければならない。」と判示したうえ「労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いものであり、したがつてその職務または業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるため必要やむを得ない場合について考慮されるべきである。」との見解に従つて判決されていることは認められるが、これらの判例は郵政省の現業職員、東京都教職員、裁判所職員に対する刑事事件に関するものであり、かつ、右見解に対する反対意見又は意見が付されているものであつて、本件争議行為当時において、これら判例の見解が、右争議行為に対する懲戒処分について、そのまま確定したものとして適用されるかどうかは、はつきりとは断言することはできない状態にあつたというべきである。
(四) そして、本件懲戒処分に当つて、懲戒(任用)権者である控訴人局長及び同署長が林野庁と協議したことは控訴人らの自認するところであるが、本件争議行為は、全林野の指令による全国的規模の拠点ストライキの一環であり、かつ、右ストライキの参加者も多数にのぼることから、控訴人ら懲戒権者が被処分者らに対する懲戒処分の公平を期するために、林野庁の担当職員と協議して調整をなし、一定の基準に従つて被控訴人らに対する処分を行つたことは、やむをえない措置であると考えられ、なんら責められるべき違法、不当な点はないというべきである。なお、本件懲戒処分は林野庁の労務担当者の発意に基づいて労務政策の一環として同庁で設定された統一基準を機械的一律的にあてはめてなされたものであるとの被控訴人らの主張を認めるに足りる証拠はない。
(五) 懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられる。その際、懲戒事由に該当すると認められる当該行為が争議行為自体又はそれと関連したものであるときは、当該行為者の個別的な事情のほか、争議行為時及び懲戒処分時の労使関係の状態等の具体的事情、右処分が労使関係ひいては国民全体に及ぼす影響なども考慮に入れることはその裁量権の範囲内にあるということができる。したがつて、右の具体的事情及び影響の如何によつては、時期を異にする同じ程度・態様の非違行為に対する処分の有無又は選択された処分が相異したり、より重大な非違行為について処分がなされなかつたり、比較的軽い処分で済まされたりしても、それが社会観念上著しく妥当を欠くものでないかぎりは、法律上許されることであつて、これをもつて裁量権を濫用した違法があるとすることはできない。前記(二)の昭和四八年から同五〇年春ころまでの争議行為についてその単純参加者に対しなんらの懲戒処分も行われなかつたことには、前記のとおりの認定の理由があるので、これをもつて、本件懲戒処分が裁量権を濫用した違法があるということはできない。
(六) 以上の認定及び説示に照らすと、被控訴人らを戒告する旨の本件懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠き、控訴人らにおいて裁量権を濫用し違法であるとは認めることはできない。
よつて、本件懲戒処分は処分権を濫用又は裁量権を逸脱してなされたものであるとの被控訴人らの主張も採用することができない。
8 被控訴人らの当審における主張1について検討する。官公労働者に対し、争議行為を行うことが禁止されているのは、被控訴人らが主張するように、単にその争議行為により「国民生活に重大な障害」をもたらすおそれがあることのみが唯一の理由ではないこと、国有林野事業に勤務する現業公務員の争議行為は、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがないとはいえないことは、前記二の2(一)及び(三)に説示したとおりである。したがつて、被控訴人らの右主張も理由がない。
9 次に被控訴人らの当審での主張2について検討する。
(一) まず(一)の主張について判断する。被控訴人ら現業公務員が国家公務員法二条二項所定の一般職に属する公務員であることは前記二の3に説示したとおりであり、憲法七三条四号の「官吏」は、内閣が掌理する事務に従事する国家公務員と解されるので、被控訴人ら現業公務員も同号所定の「官吏」に該当するというべきである。そして、被控訴人ら現業公務員の給与及び賃金については、法令ではなく労働協約で定められていることは前期二の4(二)で認定したとおりであり、成立に争いがない甲第四七号証によれば、勤務時間、休日及び休暇等の勤務条件については、定員内職員は「国有林野事業職員就業規則」などで、定員外職員は「国有林野事業作業員就業規則」などで定められていることが認められるけれども、それは必ずしも、憲法二八条等に基づく憲法上の要請ではなく、国会の立法裁量に基づいた措置であることは前記二の2(四)で説示したとおりである。さらに付言すれば、憲法七三条四号の「法律に定める基準」とは、官吏に関する内閣の事務掌理の基準が法律事項であることを定めたものであり、それをどの程度具体的個別的に法律で定めるか、又はその細目等は政令等に委任するか、或いは現行の公労法が規定するように労使間の協定等で定めるかは、各種公務員の従事する公務の性質・内容、勤務形態、社会的経済的情勢その他諸般の事情を総合的に考慮して合目的的に決定すべき国会の立法裁量に属する事項であるというべきである。したがつて、被控訴人らの右主張も理由がない。
(二) 次に(二)の主張について判断する。公労法八条各号に定める団体交渉事項のうちには、資金の支出を伴わず予算措置を必要としない事項もないわけではないが、賃金その他の給与、労働時間などの主要な多くの事項は資金の支出、予算に関係するものであつて、財政民主主義に表れている議会制民主主義の原則により直接又は間接の国会の判断に待たざるをえない事項である。そして、被控訴人ら現業公務員は、前記説示のとおり、国有林野事業に勤務する一般職に属する国家公務員であつて、憲法二八条の勤労者には該当するけれども、同法一五条、四一条、七三条四号、八三条等の規定により、憲法上特殊の地位、立場にあることは前記二の2(一)、(二)に説示のとおりであり、その給与・賃金も国の収入を財源として支出されるものであつて、一般私企業の労働者とは異つた地位にあるものである。
また、被控訴人ら現業公務員はその従事する公務の性質・内容等からみて、単に政府が資本金を全額出資している国民金融公庫等の公法上の法人の職員とは同一視することもできない。したがつて、被控訴人らの右主張も理由がない。
10 被控訴人らの当審における主張3について検討する。公労法四〇条一項一号は国家公務員法三条二項ないし四項を適用除外しているが、右規定は控訴人らの主張するとおり、人事院の分掌事務及び権限を一般的、包括的に宣言しただけの規定であり、そのほか、公労法は現業公務員の給与その他の賃金、労働時間等の勤務条件などを原則として、労使間の協定又は仲裁で定める旨規定していることから、国家公務員法二二条その他の人事院に関する規定も適用除外しているが、現業公務員についても、同法の任用、分限、懲戒、服務等に関する規定のうち大半のものの適用があり、かつ、同法附則一三条は、一般職に属する職員に関しては、その職務と責任の特殊性に基づいて、同法の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則をもつてこれを規定することができる旨を定めているので、人事院が同規則八―一四(非常勤職員等の任用に関する特例)を定め、被控訴人らのうち定員外職員が右規則により任用されていることには違法な点又は脱法的運用として非難されるような点はない。そして、当審証人木村武の証言によれば、国有林野事業においては伐木、造林などの基幹となる現場作業が主として定員外職員によつて行われていることが認められ、同職員の任用、賃金、その予算上の支出項目などは前記二の3に認定したとおりであるが、同事業特有の季節的要因から年間を通じて均等な同職員の雇用量の確保が困難であること、労務の内容・性質から出来高給の維持も避け難いことも前記説示の如く認定したとおりである。また、定員外の職員については給特法五条の給与総額についての規定の適用はないが、給与の根本原則を定めた同法三条、給与準則についての四条、勤務時間等の勤務条件についての六条の各規定等は適用がある。財政法二三条によれば、国会が議決する予算の歳出の区分は項までではあるけれども、国有林野事業特別会計法一一条二項により、毎会計年度国会に提出する同特別会計の予算には、歳入歳出の予定計算書、当該年度の国有林野事業勘定の予定損益計算書及び予定貸借対照表等を審議のため参考資料として添付しなければならないことになつているところから、定員外職員の賃金は国有林野事業費(項)として予算に組み入れなければ支出できないものであり、かつ、同事業等の業務量、定員外職員の雇用人員、賃金等は国会の審議の対象となり又はなりうるものであるから、右賃金その他の勤務条件の決定は議会制民主主義の制約に服し、国会の直接又は間接の判断を待たざるをえないというべきである。
11 以上8ないし10に認定及び説示したところによれば、公労法一七条一項が憲法二八条に違反するともいえないし、公労法一七条一項を国有林野事業に従事する公務員、特に定員外職員の行う争議行為に適用するのは憲法二八条に違反するともいえないので、被控訴人らの当審における主張4は理由がなく、採用することができない。
12 最後に、被控訴人らの当審における主張5及び6について検討する。ILO条約九八号(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)六条の「公務員」の意義については、広く国又は地方公共団体等に任用されている公務員一般を指すのか、又は「国の行政に従事する公務員」に限定されるのかなどの解釈についての争いがあるけれども、成立に争いがない甲第七八号証により認められ、かつ、条文上明らかなとおり、同条約は、国等及び私企業を通じて、労働者の争議権に関するものではなく、また、ILO条約八七号(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)も同様に、前記の労働者の争議権に関するものではない。そして被控訴人ら現業公務員は、公労法四条、八条等において、労働組合を結成し又は加入し、公共企業体等の管理及び運営に関する事項を除いて、その勤務条件等について使用者と団体交渉をし、労働協約を締結する権利を与えられているので、右の両条約に抵触する点はない。また、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(昭和五四年条約六号)八条一項(d)号(「同盟罷業をする権利」)については、成立に争いがない甲第七六号証により認められるとおり、日本は右国際規約の批准に際して同号について留保を宣言しており、同号の規定は条約としての効力をいまだ発生していない。しかも、同条二項は、「公務員」の意義についてILO条約九八号六条のそれと同様の争いがあるけれども、「この条の規定は、軍隊若しくは警察の構成員又は公務員による1の権利の行使について合法的な制限を課することを妨げるものではない。」と規定し、(d)号も「ただし、この権利は、各国の法律に従つて行使されることを条件とする。」との但書を設けている。そして、右国際規約八条一項(c)号の「労働組合の自由に活動する権利」には争議権は含まれないと解され、また、仮にそうではなく同盟罷業以外の争議行為をする権利はそれに含まれるとしても、被控訴人ら現業公務員に対し法律上争議行為が禁止されていることには前記二の2(一)及び(三)で説示したとおりの合理的な理由があるので、右の理由は(c)号所定の「法律で定める制限であつて国の安全若しくは公の秩序のため又は他の者の権利及び自由の保護のため民主的社会において必要なもの」に該当するというべきである。そして、現業公務員には団結権、団体交渉権等が与えられているので、右国際規約に抵触する点がないことは、前記の両条約について説示したところと同様である。
よつて、公労法一七条一項が前記の両条約及び国際規約の各規定に違反するとの被控訴人らの右主張も理由がない。
三 以上の次第で、第一審原告近藤利夫と控訴人署長との間の本件懲戒処分取消請求訴訟は、昭和五一年七月七日同原告の死亡により終了したものであり、同原告を除く、その余の被控訴人らに対する控訴人らが行つた本件懲戒処分は適法であつて、被控訴人らが主張するような違法な点はない。したがつて、被控訴人らに対する本件懲戒処分は、控訴人らが合理的な裁量に基づかず裁量権を逸脱濫用した違法なものであるとしてこれを取消した原判決は不当であるというべきである。よつて、原判決を取り消し、第一審原告近藤利夫を除く、その余の被控訴人らの請求をいずれも棄却し、右近藤利夫と控訴人署長との間の本件懲戒処分取消請求訴訟については前記の理由による終了を宣言することとし、訴訟費用について民訴法九六条、九三条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 藤原康志 片岡安夫 小林克已)
原審判決の主文、事実及び理由
主文
1 被告東京営林局長が原告石原明及び同青山義恵に対し、被告甲府営林署長がその余の原告らに対し、昭和四五年七月四日付で行なつた原告らを戒告する旨の各懲戒処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(請求の趣旨)
主文1項と同旨。
(請求の趣旨に対する答弁)
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
(請求原因)
一 原告石原明及び同青山義恵(以下第一原告らという。)は任命権者である被告東京営林局長(以下被告局長という。)に採用され、その余の原告ら(以下第二原告らという。なお第一原告らと第二原告らをあわせて原告らという。)は任命権者である被告甲府営林署長(以下被告署長という。)に採用され、いずれも甲府営林署管内の国有林野事業に従事している者である。
二 被告局長は昭和四五年七月四日第一原告らに対し、被告署長は右同日第二原告らに対し、それぞれ原告らを戒告する旨の各懲戒処分(以下右各懲戒処分を総称して本件懲戒処分という。)をした。
三 しかしながら、本件懲戒処分は違法であるから、その取消しを求める。
(請求原因に対する認否)
請求原因一、二記載の事実は認める。しかし本件懲戒処分は違法ではない。
(抗弁)
一 はじめに
本件懲戒処分は、昭和四五年四月三〇日に原告らが全林野労働組合の指令によりそれぞれ始業時の午前七時三〇分から二時間余にわたつてその職務を放棄したこと(以下これを本件争議行為という。)に対してなされたものである。以下においてこの点を述べる。
二 原告らの勤務する甲府営林署の概況
東京営林局甲府営林署は、国有林野約三、八〇〇ヘクタール、公有林野等官行造林地約一、三〇〇ヘクタールを管理経営し、営林署本署のほか担当区事務所三(甲府、富士吉田、南部)、製品事業所一(片房沢、ただし昭和四五年六月一日に内船と改称)、苗畑事業所一(諏訪森)、苗畑作業場一(大木)からなつている。本署には、庶務課、経理課、経営課、事業課の四課が設置されている。
職員は一般職の国家公務員であって、本件当時、行政機関の職員の定員に関する法律(以下「定員法」という。)に基づくいわゆる定員内職員五八名、常用作業員四四名、定期作業員一四名、臨時作業員二七名が勤務していた。
三 原告らの所属する労働組合及び組合における原告らの地位
全林野労働組合(以下全林野という。)東京地方本部(以下東京地本という。)甲府営林署分会(以下甲府分会という。)は、甲府営林署に勤務する職員をもつて組織されている労働組合であり、本件争議行為当時一〇七名の組合員を擁していた。
原告近藤芳平、同望月純雄及び同望月勝吾の三名は甲府分会執行委員であり、その余の原告らはいずれも一般組合員であつた。
四 本件争議行為に至る経緯
1 全林野は、日本労働組合総評議会(以下「総評」という。)傘下にあり、同時に公共企業体等労働組合協議会(以下「公労協」という。)の構成員であるが、昭和四五年三月八日及び九日の両日にわたつて開催した「第四八回中央委員会」において、右総評及び公労協の一、九七〇年春闘方針に基づいて、「大巾賃金引上げ、合理化反対、安保廃棄を結合して、この闘いを成功させるためストライキで闘い抜く」という全林野の七〇年春闘方針を決定した。
2 全林野は、昭和四五年三月一四日、林野庁に対して「日給制職員の賃金引上げに関する要求書」及び「月給制職員の新賃金に関する要求書」を提出した。
3 全林野は昭和四五年四月七日の全国戦術会議において、ストライキの実施につき、拠点箇所、分会数、ストライキ実施方法、ストライキ参加の範囲、指導方法に関し意思統一をした。
4 公労協は昭和四五年四月一八日に共闘委員会を開き、七〇年春闘の最大の山場における戦術として、<1>自主交渉で回答を出させる、<2>私鉄の賃上げ闘争を支援する、<3>全体の賃上げ相場の底上げを図る等を目標に、同月三〇日には半日ストライキに突入し、さらに同年五月八日には賃上げ結着の最重要段階として全一日のストライキを行なうことを決定した。
5 全林野は、右決定をうけて昭和四五年四月二〇日、全林野第六次統一行動日として同月三〇日に各地方本部(以下地本という。)半日の拠点部分ストライキを行ない、さらに全林野第七次統一行動日として同年五月八日に全一日の拠点部分ストライキを行なえとの指令を出した。
6 全林野は、その新賃金要求について当局と団体交渉が重ねられているさ中である昭和四五年四月二八日、前夜開かれた公労協拡大共闘委員会のストライキ突入再確認の決定をうけて、全地本に対し第六次統一行動日である同年四月三〇日に予定どおりストライキに突入する旨の指令を出した。
7 右指令に基づき、各営林局一営林署において、およそ一時間ないし四時間の拠点部分ストライキが行なわれ、約四八〇名がこれに参加した。
五 甲府営林署における職場集会の概要
甲府分会は昭和四五年四月二八日にストライキ宣言文を掲示したので、当局は分会に対しストライキを中止するよう事前の警告を行ない、さらに職員に対して、違法なストライキに参加しないようにとの林野庁長官の要請文を本署庁舎内、南部担当区事務所及び片房沢製品事業所にそれぞれ掲示して自重を要望した。
しかし右警告等にもかかわらず、同月三〇日、南部担当区事務所及び片房沢製品事業所に勤務する原告らは、上佐野国有林一二六林班い小班内(山梨県南巨摩郡南部町上佐野地籍)において、全林野東京地本書記長木下勝平らの直接指導のもとに、始業時の午前七時三〇分から午前九時三三分まで、時間内の無許可の職場集会に参加し、甲府営林署長の発した再三にわたる職場復帰の命令等を無視してこれを継続した。
その結果原告らは、職場集会解散後各作業現場に復帰するまで、それぞれ二時間余にわたつて各自の職務を放棄した。
六 原告らの処分事由
1 本件当日の原告らの雇用区分及び職種並びに作業予定
(一) 原告石原明は片房沢製品事業所に農林技官、集材機運転手として、同安武忠夫、同久高金八、同佐藤嘉吉、同明神春義、同藤巻八郎及び同清水輝正は右事業所に常用作業員、生産手としてそれぞれ勤務し、本件争議行為当日は、製品第一班として七一林班及び七四林班において、原告石原明が機械運転、同安武忠夫及び同久高金八が全幹伐倒、同佐藤嘉吉、同明神春義、同藤巻八郎及び同清水輝正が集造材を各分担し、人工林檜六〇年ものの伐木、造材の業務に従事することになつていた。
(二) 原告青山義恵は片房沢製品事業所に農林技官、集材機運転手として、同安武作一、同近藤一、同大橋定吉、同深沢篤行、同近藤芳平及び同望月一三は右事業所に常用作業員、生産手としてそれぞれ勤務し、本件争議行為当日は、製品第二班として一二五林班において、原告青山義恵が機械運転、同安武作一、同近藤一及び同大橋定吉が全幹伐倒、同深沢篤行、同近藤芳平及び同望月一三が集造材を各分担し、人工林杉、檜の六〇年ものの伐木、造材の業務に従事することになつていた。
(三) 原告加藤明、同望月純雄、同安武美明、同近藤利夫、同安武光夫及び同氏原今朝吉は片房沢製品事業所に常用作業員、生産手としてそれぞれ勤務し、本件争議行為当日は、製品第三班として一二八林班において、鉄骨盤台撤去の業務に従事することになつていた。
(四) 原告望月勝吾、同矢川浜一、同佐野清助、同矢川吉雄、同遠藤要及び同青山勝彦は南部担当区事務所に常用作業員、造林手として、同青山正雄は右事務所に臨時作業員、造林手としてそれぞれ勤務し、本件争議行為当日は、造林A班として一二六林班において、檜の植付業務に従事することになつていた。
(五) 原告安武あき子、同安武直江、同大橋清香、同深沢おとめ、同近藤貞美及び同明神久子は南部担当区事務所に定期作業員、造林手としてそれぞれ勤務し、本件争議行為当日は、造林B班として七八林班において、檜の補植業務に従事することになつていた。
2 原告らの行為
原告らは前記五記載の職場集会に参加し、数次にわたる甲府営林署長の発する職場復帰の命令等を無視してこれを継続し、前記1(一)記載の原告らは二時間一八分、同1(二)記載の原告らは二時間八分、同1(三)記載の原告らは二時間四分、同1(四)記載の原告らは二時間七分、同1(五)記載の原告らは二時間一八分にわたつて、前記1の(一)ないし(五)記載の各自の職務をそれぞれ放棄した。
七 法令の適用
原告らの右の行為は、公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項によつて禁止された争議行為に該当し、かつ国家公務員法(以下「国公法」という。)九六条一項、九八条一項、九九条及び一〇一条一項にそれぞれ違反するものである。
よつて被告らは、原告の右行為は国公法八二条各号に該当するものとし、昭和四五年七月四日付で原告らに対し本件懲戒処分を行なつたものである。
(抗弁に対する原告らの認否)
一 抗弁一ないし三記載の事実は認める。
二 同四記載の事実中、1の事実は認める。ただし、「臨時雇用制度の抜本的改善」、「定員外職員の処遇改善」も重要な闘争方針になつていた。2及び3の事実も認める。4の事実は不知。5の事実のうち、全林野が被告ら主張の日に被告ら主張の指令を出したことは認めるが、これが公労協の決定をうけてなされたことは不知。6の事実のうち、全林野が被告ら主張の日に被告ら主張の指令を出したことは認めるが、これが公労協拡大共闘委員会の決定をうけてなされたことは不知。7の事実は認める。
三 同五記載の事実中、被告署長が再三にわたり職場復帰命令等を出したことは否認するが、その余の事実は認める。
四 同六記載の事実中、1の事実は認める。2の事実のうち、被告署長が数次にわたり職場復帰の命令等を発したことは否認し、原告ら各自の職務放棄の時間は争うが、その余の事実は認める。
五 同七記載の主張のうち、本件懲戒処分が国公法八二条の規定を適用してなされたものであることは認めるが、その余の主張は争う。
(原告らの主張)
一 公労法一七条一項は憲法二八条に違反する。
1 労働基本権―特に争議権―は、憲法二五条が宣言する生存権を労働者の労働生活の場面で具現化したもので、労働者にとつてはその生存権を実現するための唯一、不可欠の権利である。従つてそれは最大限に尊重されなければならず、手段的な権利であるからということで安易に制限を加えることは許されない。そして、公共企業体等の職員も、憲法二八条にいう勤労者にほかならない以上、その保障を受けるべきものである。
このように考えると、他の人権との調整上労働基本権―特に争議権―に制約を付さざるを得ない場合であつても、その制約については次の条件が満たされなければならないと解すべきである。すなわち、<1>当該職務の「一時的」な停廃によつても、公衆に対して「受忍の限度」を超えた苦痛ないし障害を「直ちに」与える場合に限つて、はじめて規制を考慮することができる。<2>その場合であつても、その規制は手段、方法において必要最小限に止められなければならず、個別制限によつては到底その目的を達し得ない場合に限つて全面一律禁止の方法による規制が許される。<3>規制がやむを得ない場合であつても、これに見合う適切な代償措置が講じられなければならない。
ところが公労法一七条一項は、規制の対象とされる公共企業体等の職員の争議行為を、その担当する業務いかんを問わず「一律」に、争議行為の態様いかんを問わず「全面的」に、しかも最も強圧的な「禁止」という抑制で臨んでいる。しかしながら、公労法の適用を受けるいわゆる三公社五現業の業務は多種多様であり、その中でも本件の国有林野事業(この業務の内容については後記二2参照。)、日本専売公社、造幣事業、印刷事業、アルコール専売事業などについては、その組合や職員の争議行為によつて国民生活に重大な障害がもたらされるおそれは全くない。また、およそ争議行為といわれるものの態様はさまざまであつて、三公社五現業の業務について、そのすべての争議行為が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるとは到底いえない。またかりにその争議行為に何らかの規制をする必要がある場合が存するとしても、その規制には多様な手段、方法が考えられ、これを禁止する必要があるとは到底考えられない。さらに、公労法の定める代償措置も右禁止に見合つた適切なものとはいえない。従つて公労法一七条一項の規定は全体として憲法二八条に違反し無効である。
2 また公労法一七条一項の規定は、次のような観点からみても違憲無効である。すなわち、法律によつて一定の制限を課すことが憲法上認められている基本的人権(労働基本権が基本的人権の一つであることは勿論である。)を規制する法律は、立法目的の合理性ないしそれと密接に関連する立法の必要性を裏づける事実、及び立法目的が合理的であることを基礎づける事実―いわゆる立法事実―を前提としてはじめて合憲性が認められると解すべきである。
そこでこのことを公労法についてみると、同法はともかく国内法の立法形式をとつて成立したが、それは占領軍の超憲法的権力に基づいたマツカーサー書簡に唯一の根拠を置くものであり、またその内容についても、同法一七条一項の規定について、政府は審議過程を通じその立法理由(らしきもの)として「再建途上の国家経済の為の客観情勢上の必要性」ということを述べるのみで、その合理的根拠を説明することができなかつた。ところが、日本の独立により公労法一七条一項の唯一の法的根拠である占領軍命令はその効力を失い、また同条項を必要とすると説明された国家経済再建などの客観情勢も今日消滅していることは明らかである。従つて、公労法一七条一項の規定は始めからその立法事実を欠き、あるいは少くともその後立法事実は消滅したから、もはやその違憲性は確定しているといわねばならない。
二 国有林労働者に対し公労法一七条一項を適用することは憲法二八条に違反する。
1 森林が水源涵養、土砂流出防止等の国土保全機能その他もろもろの公益的機能を有することは争わないが、これらの公益的機能は森林が森林として存在すること自体によつて発揮されるものであつて、このことは国有林ばかりではなく国有林面積の約二倍の森林面積を有する民有林にも等しく当てはまるものである。しかも森林の公益性は海洋や大気の公益性と同性質のものであつて、これらの公益性がその関連産業の公共性と論理的に結びつくものではない。争議行為を規制する根拠としうる事業の高度の公共性が本件の国有林野事業に認められるか否かは、その事業そのものの性質、内容の分析によらなければならない。
2 そこで国有林野事業の業務の内容を概観し、その業務の停廃によつて国民生活に重大な障害がもたらされるおそれがあるかどうか検討する。
まず第一に、製品生産事業は国有林野事業の重要な事業の一つであるが、この点について国有林の重要性は極めて小さい。すなわち、昭和四五年を例にとると、わが国の用材総供給量のうち国有林材の占める割合は一四・四パーセントであり、その中で立木のまま民間業者に販売されるものを除いた製品生産材は約四〇パーセントの割合を占めるのみである。そしてこの製品生産材のうち直ようによるものが約八〇パーセントである。従つてわが国の用材総供給量のうち、現実に国有林労働者の手によつて供給される用材量はわずか四・六パーセントにすぎない。またわが国の用材総供給量に対し国有林材の占める割合が前記のように極めて低いことから、国有林材がわが国の木材価格の安定に資するというようなことは全くなく、木材の価格は、わが国の用材総供給量の五五パーセントを占める輸入木材の価格、需要の見込み、外材輸入を独占している大商社の投機、売り惜しみなどの諸条件に左右される。
第二に、林木育成事業のうち、造林事業については、苗木を植栽することが唯一の方法ではなく、伐採方法が適正ならば跡地には天然林が生え、森林としての公益機能は一定の年限の経過とともに回復するのである。苗木を植栽する場合にもその適期には相当の巾があり、またかりに植栽が一年遅れたとしても、成木になるまでの期間が数十年であることを考えれば、事業の総体には何らの影響がないと言つてよい。また造林事業の半分以上は民間の請負によつて遂行されている。さらに種苗事業については、国有林野事業の生産する苗木は国内生産量のわずか一七・八パーセントである。
第三に、治山事業は広義には保安林による伐採の制限、禁止、土地の形状の変更禁止などを含むが、これらは争議行為禁止の根拠となしうる公共性とは全く無縁である。狭義の治山事業は、大まかにいうと水源地造成、海岸砂地造林などの保安林の造成と、崩壊地復旧、はげ山復旧などの山地治山施設の構築の二つに分かれるが、いずれも一日や一か月の時間を争う緊急の公共性を有しない。事業費の面からみると、昭和四五年度において、国有林野事業として行なう治山事業費は約七五億円であるのに対し、この約四倍の経費が民有林の治山事業において支出されている。ところが国は後者の治山事業については直営をせず、補助金を交付するのみである。また国有林野事業の直営として行なわれる治山事業についてもそのほとんどが民間の請負に出されており、これに対応して国有林野事業の治山関係従業員は従全業員の二パーセントを占めるにすぎない。
第四に、林道事業については、林道の新設、大修繕はおおむね請負に出されているし、その他の業務で緊急の公共性を云々できるようなものはない。
以上のように国有林野事業は、いずれもその従業員の争議行為の禁止を根拠づけるような高度かつ緊急の公共性を有するものとは到底いえない。
3 以上のように、国有林労働者の争議行為による国有林野事業の業務の停廃は、国民生活に重大な影響を与えることがあり得ない。従つて国有林労働者の争議行為に公労法一七条一項を適用することは、憲法二八条の趣旨に反するものといわなければならない。
また、第二原告らいわゆる定員外職員は、国公法の任用、分限、保障に関する規定の適用をいわれなく排除されている。従つて、公労法一七条一項を、これら日給制作業員を主体とする、労働条件の維持、向上を目的とする本件争議行為にまで適用し、これを禁止することは、まさに憲法二八条の保障する労働基本権を代償なしで奪うことであつて、違憲である。
三 本件争議行為は公労法一七条一項の禁止する争議行為に当たらない。
1 前記二の見解が容れられない場合には、公労法一七条一項の規定は、労働基本権を保障した憲法二八条の趣旨と調和するよう限定的に解釈されなければならない。すなわち同条項は、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらす虞れのある争議行為に限つて禁止したものと解さなければならない。そして具体的な争議行為が右の禁止される争議行為に該当するか否かは、公共企業体等の業務(本件では国有林野事業)もしくは職員ないし作業員の職務の公共性の強弱と、当該争議行為の種類、態様、規模とを相関的に考慮して決すべきである。そこでこの観点から、本件争議行為が禁止される争議行為に該当するか否かを検討する。
2 (一) 国有林野事業の公共性
国有林野事業が、一時的な業務の停廃によつて国民生活に重大な障害をもたらす虞れのある高度の公共性を有する事業でないことは前記二2で述べたとおりである。
(二) 原告らの業務内容及び本件当日の作業予定
この点については抗弁六1記載のとおりであつて、本件争議行為に参加した原告らは、製品生産事業及び造林事業に従事する者のみである。そして右各事業が、一般的に言つて高度の公共性を有するものでないことは前記二2で述べたとおりである。
3 本件争議行為の経過
(一) はじめに
本件争議行為は、原告ら林野庁職員(特に第二原告ら日給制職員)の賃金引上げを要求して行なわれたものである。以下この点について述べる。
(二) 原告らの身分
第一原告らは定員法の適用を受けるいわゆる定員内職員であり、第二原告らは同法の適用を受けないいわゆる定員外職員であつて、その雇用区分は抗弁六1記載のとおりである。
(三) 原告らの賃金形態
第一原告らは、昭和四四年七月に林野庁と全林野との間で締結された「月給制職員の基準内給与に関する協約」が適用される月給制職員であり、第二原告らは同じく同月締結された「国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協約」によつて処遇されている日給制職員である。第一原告ら定員内職員が会計処理上労務費の中から給与を受けているのに対し、第二原告ら定員外職員は事業の一環として事業費の一部から賃金を受けるにすぎず、その額はきわめて低い。
(四) 新賃金要求の背景
昭和四四年度の林野庁職員の賃金水準は、月給制職員が月額五四、八四〇円、日給制職員が月額三七、七四三円であつたが、高度経済成長政策のあおりを受けて、消費者物価は昭和四五年一月には対前年同月比七・八パーセントと高騰し、同四四年度の上昇率は六パーセントに達すると予測されていた。そして、全林野が昭和四四年一〇月に組合員を対象に行なつた生活実態調査によれば、このような状況下での組合員の生活は苦しく、半数近くの組合員が共稼ぎや内職をして生計を補つていることが明らかとなつた。
また日給制職員の賃金については、月給制職員との賃金格差は大きく、全林野と林野庁の間にはこの賃金格差を是正するためのいわゆる日給制職員の賃金引上げに関する一〇確認がなされていたにもかかわらず、昭和四四年度当時には依然として月額約一三、五〇〇円ないし一五、七〇〇円の格差が生じていた。
(五) 要求書の提出
そこで全林野は右の状況をふまえ、昭和四五年三月一四日に、昭和四五年度の月給制職員の基本給を平均月額一三、〇〇〇円引き上げること及び日給制職員の基本賃金を平均日額一、一〇〇円引き上げることを内容とする抗弁四2記載の各要求書を林野庁当局に提出した。
(六) 交渉の経過
全林野は右の各要求書提出以来、賃金引上げ問題を労使の自主的な団体交渉の場で解決することを目ざし、積極的に林野庁当局に団体交渉を求めた。しかし林野庁当局は、賃上げを必要とする要因があることは認めるが民間賃金の動向が把握できないなどと称して具体的な回答を避け、また林野庁だけが他の三公社五現業の意向を離れて独自の回答をすることは困難であると称して、自主的、実質的当事者能力を自ら抛棄し、三公社五現業の共同歩調にしがみつく姿勢であつた。
このように林野庁当局が消極的態度をとり続け、誠実な回答を示さないので、全林野は昭和四五年四月二〇日、同年五月上旬に解決することを目ざして団体交渉を盛り上げ、林野庁当局に有額回答を出させる必要上、各地本に対し、同年四月三〇日始業時より半日の拠点部分ストライキを配置して闘いうる体制を強化するようストライキの準備指令を発した。
これに対し林野庁当局は、全林野から賃金引上げ要求書を受理してから四〇日余を経た同年四月二七日になつて、初めて有額回答を示した。その内容は、「引上げ額は、昨年新賃金仲裁裁定によつて示された額(月給制職員は一人平均月額四、七七七円、日給制職員は一人平均日額二〇八円)とする」、「現段階ではこれが限度であり第二次回答ということはない」というものである。しかしながら右回答は、いわゆる春闘相場を正しく反映したものではなかつた。すなわち、全産業に大きな影響を及ぼす鉄鋼、電機、私鉄の賃金動向を例にとれば、鉄鋼は前年より二、〇〇〇円多い約一〇、〇〇〇円の回答を出し、電機は前年より二、〇〇〇円以上多い回答を出し、私鉄も中央労働委員会の段階で前年額に一、〇〇〇円プラスした回答を出していたのである。また当局の右回答は、月給制職員と日給制職員の賃金格差を縮少し、月給制職員の定期昇給による賃金引上げ分を日給制職員の賃金決定に反映させるなどを定めた前記一〇確認を尊重していないものであつた。
(七) ストライキの実行及びその中止
全林野は右回答を不満とし、林野庁に対しなお検討を続け誠意ある回答を求めて翌二八日にも団体交渉を持つたが、林野庁当局は依然として、昨年同様の回答が限度であるという回答をするのみであつた。そこで全林野は同日各地本宛に、同月三〇日始業時より正午まで拠点部分ストライキに突入するよう指令した。
全林野は右指令発出後も積極的、意欲的に当局と接触したところ、林野庁当局はストライキ当日の同月三〇日午前七時三〇分ころになつてようやく、ストライキ中止の条件のもとに、民間賃金の動向が昨年をかなり上回つた賃上げになつていることを認め、それらの動向を配慮する考えであること、組合側において調停申請等の手続をとつた場合には右の考えに立つて実質的な解決ができるよう対処する考えであること、日給制賃金についても一〇確認の趣旨を尊重して誠意をもつて努力する考えであることなどを内容とする非公式回答をしてきた。全林野は右回答を中央本部において検討した結果、右回答には数多くの不十分な点があるが、当局の回答を尊重し公労委の調停委員会での解決に期待することとして、同日午前九時六分に既に突入したストライキを直ちに中止するよう各地本に指令を出した。
原告らがストライキに突入した現場は、国鉄身延線内船駅より東方約二〇キロメートルの山間部であつて、原告らは、同所から約六〇〇メートル離れた民家に設置されている公衆電話に連絡員を配備して東京地本と電話連絡をとりながら、右地本の直接指導のもとに整然と集会を開いていたのであるが、午前九時三〇分ころ右電話連絡によりストライキ中止の指令を受けたので、直ちに右集会を中止して所定の各作業に従事した。
4 本件争議行為の影響
製品生産事業に従事する原告らは、所定の始業時より約二時間程遅れて各自の作業に従事したが、そのために本件争議行為に参加しないで所定の始業時から作業に従事していた者の作業を停止又は遅延させたことは全くなかつたし、原告ら自身の作業が遅延したこともなかつた。また造林事業に従事する原告らも、所定の始業時より約二時間程遅れて各自の作業に従事したが、作業の遅延は全くなく、すべて計画どおり実行されている。このように原告らの本件争議行為は事業計画に何らの影響を与えなかつたのであるから、本件争議行為により国民生活全体の利益を害する虞れがあつたとは到底いえない。
かりに本件争議行為が事業計画に何らかの影響を及ぼしたことがあつたとしても、事業計画は争議行為以外の諸条件の変化により、しばしば不実行、遅延となつて変更されるものであつて、右事情に、製品生産事業についてはわが国における国有林材の占める地位が非常に低いこと、造林事業については数十年の年月を要して成果の現われる事業であることを考慮すると、本件争議行為は間接的にも国民生活全体の利益を害するおそれは全くなかつたといつてよい。
5 本件争議行為の性格についての被告らの主張に対する反論
公労協は全林野を含め公労法の適用を受けるいわゆる三公社五現業の組合の協議体であるが、「決定権」や「指令権」はない。従つて本件のストライキも公労協の「決定」によるというものではない。ただ、林野庁当局を含め三公社五現業当局は、いずれも組合の賃金要求に対して自主交渉、自主解決の姿勢がなく、政府の低賃金政策のもとで、公労法に争議行為禁止の規定があることを最大限に利用し、三公社五現業当局間で意思連絡をして組合要求の実現を最低におさえつけてきたのである。各使用者側が右のような方針のもとに統一して組合に対してくる以上、各組合が協力しあつて使用者側に対する方針を相談しあうのは当然のことである。各組合は公労協において春闘方針について相談しあい、その相談内容を念頭において、それぞれの組合の判断と権能に基づき春闘の行動を決定するのである。昭和四五年春闘の賃金闘争で公労協の各組合は大体において全林野と同一の行動をとつたわけであるが、右のような趣旨で同一歩調となつたのである。
また被告らは、本件争議行為はスケジユール闘争であるとして非難する。しかし春闘のような大きなかつ強固な団体行動が行なわれる場合には、団体交渉あるいは当局の出方をあらかじめ検討し、必要に応じて一定の時期にストライキを予定して組合員の意識を盛り上げることが通常行なわれるし、また必要でもある。そのような準備なしに、一片の指令でストライキを実行しうるとする見解は机上の空論である。また被告らのいう「スケジユール闘争」が、あらかじめ予定していた計画を固執し、必要性がないにもかかわらず実行する闘争を意味するとすれば、これは全くの言いがかりである。本件の争議行為がこのようなものでないことは、前述した本件争議行為の経過からみて明らかである。
6 以上述べたところからすれば、本件争議行為が公労法一七条一項により禁止された争議行為に該当しないことは明らかである。
四 本件争議行為に国公法八二条の懲戒規定を適用することは違法である。
1 ある行為が形式上ある法令に違反するような外観を呈していても、その行為が当該法令との関係で違法と評価されるかどうかは、その法令の立法精神にのつとつた価値判断によつて決せられるべきであり、ある法域で違法な行為が当然に全法域で違法となるわけではない。
このような違法性の相対性の見地から、公労法一七条一項と国公法八二条の関係をみると、公労法一七条一項は、繰り返し述べてきたように「国民生活全体の利益」の保護を目的とした規定であるのに対し、国公法八二条は、指揮命令権や職場秩序の維持によつて、使用者としての国の財産権等、その運営上の諸法益を保護しようとする規定である。原告ら林野庁職員が憲法二八条にいう「勤労者」であつて原則的には労働基本権を保障されている以上、公労法一七条一項を捨象して考えれば、原告ら林野庁職員が争議行為をした場合に、その争議行為が労組法の定める正当性を具備しているならば、原告らは使用者たる国から争議行為を行なつたことを理由に不利益を受けることはないのである。従つて、公労法一七条一項がかりに合憲であつて林野庁職員に適用があるとしても、原告らの争議行為は、同条の保護法益、すなわち「国民生活全体の利益」との関係においてのみ違法であるに止まり、使用者としての国の利益を害したことを理由に懲戒を受けるいわれはない。
ちなみに、右の見解は法文の構成にも合致する。すなわち公労法は、林野庁職員について、国公法九八条二項、三項の規定の適用を除外したうえ、これと同趣旨の一七条、一八条の規定を置いているが、林野庁職員の争議行為を懲戒処分の対象とするならば、国公法九八条二項、三項の規定の適用を除外する必要はなかつたはずである。従つて公労法は使用者としての国に対し、同法一七条一項に違反し「国民生活全体の利益」を害するに至らしめた職員を、特に同法一八条によつて解雇する権限を与えたものと解すべきである。
2 また争議行為は集団的、組織的、労働法的行動であつて、使用者の指揮命令権を完全に排除し、業務の正常な運営を阻害するところにその本質がある。これに対し懲戒は、労働者が個別的労働関係に基づいて問われる職場秩序違反に対する責任にほかならない。従つて、かりに労働組合の争議行為が違法であつた場合には、労働組合自体の責任問題が生ずることはありえても、争議行為の一環としての個々の組合員の行為を使用者との個別的労働関係にひきもどし、個々の組合員に対し職場秩序違反に対する制裁としての懲戒処分を科すことはできないと解すべきである。
3 原告らの本件行為は、前記三3で述べたように、原告らの労働条件の改善を目ざし、全林野中央本部の指令に基づき、全林野東京地本の指導のもとに行なわれた集団的組織的ストライキであつて、その目的と手段においても正当であるから、懲戒処分の対象とならない。
五 本件懲戒処分は不当労働行為である。
1 本件争議行為は、前記三3で述べたように、林野庁職員、とりわけ日給制職員の賃金引上げを目的とするものであつた。全林野は、右賃金引上げ問題を労使の自主的な団体交渉の場で解決することを目ざし、賃上げ要求書提出以来積極的に林野庁当局に団体交渉を求めたが、当局は組合の要求に対し回答をすることなく徒に交渉を引き延ばすだけで、誠意ある交渉をしなかつた。しかもストライキ決行当日の午前七時三〇分に非公式回答を示すに至つては、組合をして本件争議行為に突入させるために故意に回答を遅らせたものと評価せざるを得ない。全林野中央本部が右回答を受領し、討議してストライキ中止の決定をするまでに一時間余の時間を要することは、組合民主主義の原則上当然だからである。
2 以上の事情からすると、林野庁当局は、全林野をストライキに突入させたうえで本来処分に値しない単純参加者を処分し、もつて組合の弱体化を狙つたものというほかはない。よつて本件懲戒処分は、不当労働行為意思に基づいた労組法七条各号に違背する不当労働行為として取消しを免れない。
六 本件懲戒処分は処分権を濫用又は裁量権を逸脱してなされたものである。
1 国公法七四条は懲戒が公正に行なわれなければならないことを規定している。国有林野事業においては、その職員の労働条件に関する事項を団体交渉の対象とし、これに関し労働協約を締結することができるのであるから、右事項に関する労使関係の紛争に基因する争議行為について懲戒処分をする場合には、使用者側に右紛争においてかりそめにも違法有責な行為のないこと、すなわち使用者側が「クリーンハンド」を有していることが要求されると解すべきである。
ところが前記三3の(五)、(六)、(七)に述べたとおり、昭和四五年度新賃金に関する要求書提出から本件争議行為に至る過程において林野庁当局は、実質的な交渉拒否を行ない、しかも非公式回答をストライキ当日の午前七時三〇分ころに行なうという不誠実な態度をとつたのである。右の事実は、右新賃金に関する労使紛争に基因する本件争議行為について、林野庁当局が懲戒処分をするために要求される「クリーンハンド」を有しないことを意味するものというべきである。
2 本件争議行為は、抗弁五及び六2並びに前記三3(七)記載のとおり、東京地本の直接指導のもとに始業時の午前七時三〇分から職場集会を開催し各自の職務を二時間余にわたつて放棄したもので、暴力行為などは一切伴つていない。また、原告らはすべて単純参加者である。さらに前記三4記載のとおり、本件争議行為による実害は何ら生じていない。そして本件争議行為についての処分は、地本関係者は一一名が減給、単純参加者である原告らはすべて戒告である。
これに対し、その後の争議行為についての東京地本関係の処分についてみると、昭和四八年の春闘における全一日二回、半日一回のストライキを含む全林野の争議行為について、同四九年一月二六日付で関係者に対し懲戒処分がなされているが、右処分の対象となつた争議行為は本件のそれとは規模、態様においてはるかにきびしいものであるにもかかわらず、単純参加者に対しては懲戒処分はなされていない。また、同四八年年末闘争における争議行為三波、及び翌四九年の春闘における全一日四回、半日一回のストライキを含む全林野の争議行為について、同五〇年六月四日付で関係者に対し懲戒処分がなされているが、その対象となつた争議行為は同四九年一月二六日付処分の対象となつたそれよりも規模、態様においてさらにきびしくなつているにもかかわらず、やはり単純参加者に対しては懲戒処分はなされていない。右の処分経過をみると、同一の当局が一定の方針のもとに行なつているものとは到底みることができない。
以上述べた事実から明らかなように、原告ら単純参加者の本件争議行為は、それ自体としても、その後の経過からみても、本来国公法八二条の戒告処分にも価しないものと言わなければならない。
3 以上述べた事実をあわせ考慮すると、本件争議行為に参加した原告らは、戒告処分であれば本来処分されるべきではなく、これを処分したのは、被告らが労使関係において優位に立つために処分権を恣意的に行使したものと言うほかはない。よつて本件懲戒処分は、処分権を濫用又は裁量権を逸脱したものとして、取り消されるべきものである。
(原告らの主張に対する被告らの反論)
一 原告らの主張一に対する反論
1 わが憲法は、個人の尊厳に最大の価値を認めたうえ、それを支える個人の精神的活動の充足を図るため、個人の精神的、人格的自由に対する国家権力による侵害の排除を目的とするいわゆる「自由権」を保障した。しかし現実の社会経済状態のもとでは、右の自由を抽象的、消極的に保障するだけでは具体的な個人の充分な精神的活動を実現することが容易でないことにかんがみ、国家の積極的な関与を内容とするいわゆる「社会権」を保障したのである。そして憲法は、右の社会権のうち前提となる権利として、すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」すなわち「生存権」を保障したうえ、それを確保する手段として、財産を有している者に対しては「財産権」を、自己の労働によるしか生計のみちのない者に対しては勤労者の権利として「勤労の権利」と「労働基本権」を二つの重要な柱として保障したのである。労働基本権は、このような政策的配慮のもとに国家が国民に対し積極的に助力を与えるものであつて、天賦自然の人権ではない。そして労働基本権は、右の憲法上の地位と関連して次の二つの性格を有することに注意しなければならない。すなわち第一は、労働基本権、特に公務員の争議権は、現在の社会経済情勢のもとでは、生活水準の一層の向上を図るための手段としての性格が強く、資本制社会における経済人の権利の範ちゆうに属するということである。第二は、労働基本権は勤労者の生存権確保のための一手段にすぎず、決してそれ自身が目的ではないということである。
ところで、勤労者の経済的地位の安定と向上を図ることが憲法の理念の一つであることはいうまでもないが、同時に相対立する当事者である使用者の権益との均衝、労使関係の社会的基盤をなす国民社会の構成員たる国民、社会及び国の権益を図り、国民社会の健全な発展を促進することも憲法上の重要な要請である。従つて、このことと前述した労働基本権の憲法上の地位及び性格とにかんがみると、憲法二八条の趣旨とするところは、争議権を背景とした団体交渉によつて労働条件を決定させること(いわゆる団体自治)が、労使の利益の均衝を図りつつ労働条件を決定するについて有効、公正かつ合理的であるとの理解に基づき、この方法を労働条件決定についての標準的な方法として選び容認したものと解すべきである。従つて、使用者の営む事業もしくはその担当する機能、又は勤労者の地位、職務内容などにかんがみ、右の団体自治の方法が妥当でない場合には、労働基本権に何らかの規制を加えたうえ他の手段によつて勤労者の生存権の確保を図ることも、憲法二八条の容認するところであると解される。
2 以上のことを前提として、一般的にみて公務員について争議行為を禁止しうる根拠を述べると次のとおりである。
(一) 公務員の地位の特殊性
これは公務員が全体の奉仕者たる地位にあるということである。すなわち公務員の労働関係は、一般私企業の労働者のような資本家又は企業経営者との間の労資対抗の関係ではなく、公務員の労働関係の相手方たる使用者は究極的には国民であり、国民と公務員との関係は憲法にいう信託奉仕の関係である。従つて公務員にあつては、「公務の継続性」の要請から間断なく労務を提供することが必要とされ、それが国民の信託に沿い、公共利益のために奉仕すべき義務を果たすことになるのである。公務員が争議行為に及ぶことは基本的にその地位の特殊性と相容れない。
(二) 公務員の職務の公共性
公務員の所属する国という組織は、国民全体の福祉を目的とし使命としているものであり、国の処理すべき事務ないし行なうべき事業は、いずれも国民が国の右の目的使命達成のために国民の負担において遂行される必要があると判断して国に信託したものである。従つて、国という制度に必然的に伴う基本固有のものであれ、政策的意味から国の行なうべきものとされているものであれ、これらの事務ないし事業は国民生活の基盤をなすものとして一時も停廃されることなく遂行されることが期待されているのである。かような国の事務ないし事業の停廃は右の期待に反し、「国民全体の共同利益」を損なうことになる。
(三) 公務員の勤労条件決定過程の特殊性
公務員の勤労条件は、基本的には憲法の要請に基づき法律によつて定められ、究極的には国民の意思によつて決定されるものということができる。従つて、使用者としての政府は勤労条件の最終的な決定権を有しない。そうなると公務員の争議行為は必然的に国家の意思決定機関である国会に向けて行なわれることになるが、これは国会において民主的に行なわれるべき公務員の勤労条件決定過程を歪曲することになりかねない。また私企業の労働者の争議権に対しては市場の抑制力が働き、争議行為は妥当合理的な労働条件決定のために有効な機能を果たすが、公務員の場合には右の抑制力が働かず、労働者に一方的に強力な圧力の手段を与えることになり、争議権を認める本来の趣旨とは相反する結果をもたらすといわなければならない。
3 前項に述べたところは、同じく公務員である五現業の職員及びこれに準ずる立場にある三公社の職員について、その争議行為を禁止している公労法一七条一項の合憲性を判断するについても同様に妥当するものである。以下同条が憲法に違反しない所以を簡単に述べる。
(一) 職員の地位の特殊性、職務の公共性
いわゆる五現業の職員については、右職員はいずれも国家公務員であつて、前記2(一)、(二)に述べたことが全面的に当てはまる。これに対しいわゆる三公社の職員は、法律上は全体の奉仕者とは規定されていないが、その実質においては公務員と同一視することができ、右に述べたところがやはり全面的に当てはまるということができる。
(二) 勤労条件決定の特殊性
公労法八条は賃金その他の給与、労働時間、休日等に関する事項を団体交渉事項としている。しかし五現業及び三公社の事業が国の行う事業であり、従つてそれは国家行政の一部としての性質を持ち、その業務に従事する職員が公務員又は公務員に準ずる特殊な地位にある以上、議会制民主主義制度のもとでは直接間接に国権の最高機関である国会の意思による制約に服さざるを得ず、当事者として公共企業体等とその職員との自由な交渉のみによつて決定できる余地は極めて少ない。ちなみにこれを五現業についてみると、これらの職員の取扱の特例を認める根拠規定である国公法附則一三条の規定に基づき特例を定めている法律としては、公労法と国の経営する企業に従事する職員の給与の特例に関する法律があるだけで、これらの法律において特例として規定されている事項以外の点については、現業の公務員についても非現業の公務員についても重要な労働条件を規定している法律、規則が同じように適用されているのである。
(三) 代償措置
労働基本権を制限する場合には、これに見合う代償措置を必要とするとしても、右要請は、勤労条件の改善の要否等につき調査研究をし、その結果を勤労者に代わつて関係方面に勧告する独立、公正な機関の制度が法律上設けられていれば満たされると解すべきである。国公法及び公労法に定められている代償措置は、右の要請を充分に満たしている。なお、本件で問題になつている国有林野事業に従事する職員に関する仲裁裁定は、昭和三一年に公労委が発足した以降完全に実施されており、現実にも充分その機能を果たしているということができる。
4 公務員等の労働基本権の尊重と、公務の提供による国民全体の共同利益の擁護とは、二つながら憲法上の要請であつて、これを具体的にどのように調和させるかは、わが国の現実の社会的、経済的条件下における国民全体の選択の問題であり、公務員等の争議行為を具体的にどの範囲でどの程度制限するかは、国民の代表者である立法府の合理的な裁量によつて決定すべき問題である。従つて、その裁量が著しく合理性を欠くと認められる場合でない限り、立法府の判断は合憲と解するのが相当であり、その判断の当、不当は立法政策の当否の問題にすぎない。そして以上述べたところにより公労法一七条一項の規定が公共企業体等の職員の争議行為を全面的かつ一律に禁止しているのには十分な合理性があり、同条項が憲法二八条に違反するものでないことは明白である。
二 原告らの主張二に対する反論
1 国有林野事業に従事する職員に公労法一七条一項が適用されることについて充分な合理性のあることは、前記一に述べたところに尽きるのであるが、なお原告らの主張に対応して、国有林野事業が高度の公共性を有し、これが争議行為により停滞させられてはならないものであることを明らかにする。
2 わが国のような典型的な山国では、森林は国土保全、水源涵養等のうえで重要な役割を有するが、国有林野はわが国の森林面積の約三割、国土全体の約二割に及ぶ広大な地域を占め、しかもその分布は全国に及びその多くは脊梁山脈地帯、重要河川の上流地域に所在するため、国有林の国土保全、水源涵養等のうえで果たす役割は極めて重要である。またわが国の近年の国民経済の急速な発展に伴う産業公害等の深刻化する中で、国有林野は国民の保健休養の場、貴重な自然景観、動植物等の保護の場として重要な使命を有する。さらに国有林野はわが国森林総蓄積量のほぼ二分の一を保有し、国民生活に重要な林産物の持続的供給源であり、その需給及び価格の安定に果たすべき公共的役割は極めて重要である。また国有林野事業は、国有林の所在する農山村地域における農林業構造の改善、農山村経済の助成のための種々の施策を行なう使命を有している。このように国有林野事業に求められている役割や目的は、本来行政主体としての国が果たすべき公共的な性格のものである。
3 右のような役割や目的のもとに、国有林野事業は実際の事業として、広大な保安林の保護や管理の事業、治山・林道事業、奥地未開発林の開発、国民の保健休養のための事業、民有林振興・地域住民の福祉向上のための協力事業等公共性の強い事業を実行しており、これらの事業は、一般企業がその経済的利益を追求するために行なう事業とは本質的に異なるものである。また国有林野事業における木材の生産、販売、造林等の事業も、森林資源を培養し、木材の需給、価格の安定に寄与するという国家的使命を有することから、その生産販売は利潤本位のものではなく、常に継続的になされ、民間の林業経営とは基本的にその性質を異にする。
4 争議行為禁止の基準として、国民生活に対する直接の影響ないし具体的実害の程度を問題とすることはそもそも妥当でないが、国有林野事業についても、その業務の停廃は国民生活に深刻な影響を及ぼすことは明らかである。
すなわち、国有林野に求められる多目的な機能を最高度に発揮し、国有林野事業に課せられた公共的な役割を遂行するためには、森林の自然的生長に対し長期にわたる膨大な人為的働きかけを必要とする。この人為的働きかけを最も効率よく行なうために、末端の最小単位の業務まで盛り込んだきわめて細分化された詳細な長期かつ総合的諸計画が作成され、これらに基づき諸事業が実行される。従つてこのような計画的事業実行のもとにおいては、計画の一部のそごは決してその一部だけにとどまらず、直ちに他の部分に波及し、全体的な事業実行に重大な支障を与える可能性を持つているのである。これを例えば伐採事業についてみれば、その支障は収穫販売の業務に影響を及ぼすことは勿論、伐採跡地に対する造林計画、その造林のための種苗計画等にも波及し、業務の正常な運営が阻害されその結果国民全体の利益に重大な支障を及ぼすおそれが大である。
三 原告らの主張三に対する反論
1 限定解釈論に対する反論
いわゆる限定解釈は、当該争議行為が国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものかどうかという抽象的基準のもとに、禁止される争議行為の範囲を争議行為の主体面と態様面との相関関係において限定しようとするものであるが、次に述べるようにその基準はすこぶるあいまいかつ不明確であつて不当である。
すなわちまず争議行為の主体面における限定についてであるが、これは職務の公共性によつて限定しようとするものである。しかしながら、そもそもいかなる職務が公共性が強く、いかなる職務が公共性が弱いかについての判断は極めて困難であるばかりでなく、その職務の公共性は個々の職員ごとに判断されるのか、あるいは職場単位、事業場単位で判断されるのか、さらには公務、事業の種類別に判断されるのかすこぶる不明確である。
次に、争議行為の態様面における限定についても、右と同じ批判が当てはまる。すなわち争議行為が禁止されるものであるかどうかは、常に職務の公共性との相関関係において決定されるものであろうが、争議行為が事前の計画どおりに遂行されることはまれであることをも考えると、争議行為が国民生活に及ぼす影響を事前に予測することは至難のわざである。
結局右のような考え方をとつた場合には、争議行為を行なつてみて、裁判所の判断を受けるまでは懲戒責任あるいは刑事責任を受けるのかどうか全く不明であるということになり、争議行為を禁止した規定の行為規範としての機能を喪失させるものといわなければならない。
2 本件争議行為の性格について
本件争議行為は、抗弁四1に述べたように賃金引上げ要求に安保廃棄の要求という政治目的を加えて行なわれた不当なものであると同時に、林野庁との交渉の経緯とはかかわりなく、昭和四五年三月八日及び九日の全林野第四八回中央委員会において決定されたストライキ計画に基づき、総評傘下の各単産と歩調を合わせて行なわれた違法なスケジュール闘争である。
すなわち、昭和四五年度の新賃金に関する全林野の要求書は同四五年三月一四日に林野庁に提出され、以来本件争議行為の行なわれた同年四月三〇日までの間に一一回に及ぶ交渉が行なわれたが、この間の四月二七日には、林野庁は全林野に対し誠意をもつて同四四年並みの有額回答を行ない、さらに同月三〇日早朝の第一一回の交渉において林野庁は、「ストライキは一切行なわないこと」を前提条件として、「前回の回答後における民間賃金の動向は大勢として上向き、昨年をかなり上回つた賃上げとなつている。従つて、いわゆる春闘相場については種々の観点があろうと思うが、当局の姿勢として従来の経緯もあり、それらの動向を配慮する考えである。もし組合側がストライキをやめて合法的手段をとつて調停申請等の手続を行なう場合は、当局として調停で実質的な解決が図れるよう検討したい。日給制についても、同様の趣旨で努力したい。」旨の回答を行なう等誠意をもつて本事案の解決に努力してきたものである。
ILOの結社の自由委員会第一三九次報告第一二四項は、「交渉が行なわれるずつと以前から計画的に決定されるストライキは結社の自由を逸脱するものと考える。」と述べているが、本件のストライキは正にここに指摘されているようなスケジユール闘争であつてその違法性は明白である。さらに本件争議行為は、代償措置として定められ、実際にも過去一〇有余年有効にその機能を発揮してきた公労委における調停等の適法な手続を初めから無視したものであつて、この点からも違法不当である。
四 原告らの主張四に対する反論
1 一般に私企業における懲戒の目的は、使用者の立場からする職場秩序ないし企業秩序の維持にあると解されている。公務員の懲戒も、公務員関係の秩序維持の目的から設けられている点においては、私企業における懲戒と実質的に共通する面のあることは否めないが、公務員関係における秩序は公務員の地位の特殊性に照らし、私企業の労働関係における企業秩序と本質的に異なる要素をもつことが注意されなければならない。すなわち公務員の勤務関係は、前記一2(一)で述べたように国民の信託・負託ということによつて基礎づけられるものであり、右の観点から上司の職務上の命令に従う義務(国公法九八条一項)や職務専念義務(同法一〇一条一項)は法律によつて規定され、その他信用失墜行為の禁止(同法九九条)、政治的行為の制限(同法一〇二条)、私企業からの隔離・営利企業等の従事制限(同法一〇三条、一〇四条)などの私企業の労働関係にはみられない公務員に固有の服務義務が公務員に課されているのである。従つて公務員の懲戒制度は、公務員の右の特殊な地位に基づき、公務の執行ないしは公務員に対する国民の信頼を維持することにその目的があり、使用者の利益保護を目的とする私企業の懲戒制度と同一視することはできない。
従つて公務員の争議行為は、国の業務の維持の面からする職務秩序に違反するものであるとともに、他面においては公務員として課せられた服務義務に違反する側面を有し、懲戒責任は免れ得ないところである。
2 個々の労働者は使用者と労働契約を締結することによつて、企業組織内に編入され、企業秩序に服することになるのであつて、このような関係は労働契約の存続する限り継続するものである。他方労働者が労働組合に加入すれば、その労働者は労働組合の団体的統制に服することになるが、この両者の法律的関係は別個独立のものとして併存し、その間に優劣の関係はない。従つて争議行為が行なわれた場合にも、それによつて使用者と個々の労働者との間の労働契約関係が消滅するわけではなく、組合員たる労働者が企業秩序の拘束から離脱するという効果を生ずる理由はない。ただ企業秩序違反が争議行為として行なわれた場合には、争議行為が労働者に保障されている関係上、それが正当なものである限りその行為の故に労働者が企業秩序違反の責を問われることはないというに止まり、争議行為が違法なものであれば、その行為が企業秩序に違反するものと評価され、当該労働者がその責を負うのを妨げる理由は何ら存しない。
また争議行為は、一方においては労働組合の統一的、集団的行為であるが、他方では団体構成員たる組合員の共同に意欲された個別行為の集合である。これを端的に表現すれば、争議行為は労働組合の行為であると同時に、個々の組合員の行為でもある。従つて争議行為が不当、違法な場合には、労働法上もはや団体行動として保護されず、組合としても責任を生じる場合があると同時に、個々の組合員も契約秩序、服務秩序違反の責任が生じるといわなければならない。
五 原告らの主張五に対する反論
本件懲戒処分が不当労働行為であることは争う。原告らの主張が失当であることは、前記三2に述べた全林野の新賃金要求に関する交渉の経過からみて明らかである。
六 原告らの主張六に対する反論
原告らは、本件懲戒処分はその後の全林野の争議行為についてなされた懲戒処分と比較して過酷な処分であり、処分権を濫用又は裁量権を逸脱してなされたものであると主張する。しかし、これは裁量権というものを誤まつて理解した、はなはだ一面的な主張である。
そもそも国家公務員の違法行為等に対する懲戒処分は、国公法八二条及び人事院規則一二―〇により懲戒権者が公正を期して裁量権を行使するものである。そして本件のようなストライキについては、現業公務員の争議行為を全面一律に禁止している公労法一七条一項にかんがみ、懲戒権者がそれぞれストライキの目的、それに至る経緯、その規模、態様等は勿論のこと、社会的環境や選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等の諸般の事情をその都度総合勘案して、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを慎重かつ公正に判断したうえで処分を決定しているものであつて、単にストライキの回数、規模、態様等だけの比較から、懲戒処分の不均衡を主張するのははなはだ一面的な、かつ裁量権を誤解したものといわなければならない。もとよりその裁量は、恣意にわたつたり、当該行為との対比においてはなはだしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであつてはならないが、懲戒権者の処分選択が右のような限度を超えるものとして違法性を有しない限り、それは懲戒権者の裁量の範囲内にあるものである。これを本件においてみるに、本件争議行為当時において原告らに対する本件戒告の処分は、国公法上の懲戒処分としては最も程度の軽いもので、かつほとんどの原告にとつて経済的には不利益を及ぼさないものであつたので、原告らが当局の制止警告を無視して法律に違反するストライキに参加したものである以上、この程度の懲戒処分は当然のことであり、懲戒権者の裁量の範囲内である。
ところで、昭和四八年春闘に関連して三公社の職員及び五現業の国家公務員等に対してなされた懲戒処分の結果については、公務員制度審議会の答申(昭和四八年九月三日)、ILOの報告(昭和四八年一一月一六日)等が影響して処分の量定が上に重く下に軽いとか、又は一段階軽いなどとの論評がなされている。かりにこのような事情を斟酌して懲戒処分がなされたものであるとしても、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等諸般の事情を参酌することができるのであるから、これも社会通念に照らして合理性を欠くものとはいえず、懲戒権者の裁量の範囲内にあるといえる。そしてこのような昭和四八年春闘の事例を直ちに同四五年春闘の本件処分に結びつけて、その妥当性を論ずることは正当なものとはいえない。
第三証拠関係<省略>
理由
一 原告適格と処分の存在
請求原因一及び二各記載の事実は当事者間に争いがない。
二 本件懲戒処分の適否
1 処分理由
抗弁一記載の事実及び本件懲戒処分が国公法八二条の規定を適用してなされたものであることは当事者間に争いがない。
2 本件争議行為と原告らの行為等
抗弁二及び三各記載の事実、同四記載の事実中、1、2、3及び7の事実、5及び6の事実のうち、全林野がそれぞれ同所記載の日に同所記載の内容のストライキ指命を出したこと、同五記載の事実中、被告署長が再三にわたり職場復帰命令等を出したとの点を除くその余の事実は当事者間に争いがない。
そして、抗弁六記載の事実は、1の(一)ないし(五)の事実、2のうち、被告署長が数次にわたつて職場復帰命令等を発したとの点及び原告ら各自の職務放棄の時間を除き当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第七号証、同第九号証、同第一〇号証の一ないし三三、被告ら主張のとおりの状況を撮影した写真であることにつき当事者間に争いがない乙第一一号証の一ないし一〇と証人鈴木三郎の証言をあわせれば、被告署長は、甲府営林署事業課長鈴木三郎らを通じ、昭和四五年四月三〇日始業時の午前七時三〇分から職場集会を開催して同盟罷業に入つた原告らに対し、同七時三七分ころ職場集会を直ちに解散するよう要求し、さらに同七時四七分ころ及び同七時四九分ころ原告ら各自の職場に復帰するよう業務命令を発したこと、ついで原告ら各自に対し各自の職務に従事することを命ずる業務命令書を手渡そうとしたが、原告らはいずれも右命令書の受領を拒否し、職場集会を継続したことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。原告ら各自の職務放棄の時間は、前記職場集会開催時間が始業時の午前七時三〇分から右集会を解散した同九時三三分までの二時間三分であることが当事者間に争いがないこと等弁論の全趣旨によれば、二時間をやや上回る程度であつたと推認される。
3 本件懲戒処分と合理的裁量
そこで、本件懲戒処分の適否についての原告らの主張一ないし五についての判断はしばらくおき、まず六の主張について判断することとしたい。
(1) おもうに、国公法八二条の懲戒処分は、公務員の義務違反に対して、その使用主である国家が、公務員法上の秩序を維持するために使用主として行なう制裁である。そして、本件のような争議行為については、各懲戒権者が、争議行為の目的、争議行為に至る経緯、その規模、態様、影響、各人の果した役割、社会的環境、選択する処分が他の職員や社会に与える影響等諸般の事情を総合勘案して、懲戒処分権を発動するかどうか、発動するとしても同条の規定するいずれの懲戒処分を選択するかを決すべきものであるが、この判断は懲戒権者の裁量に委ねられているとみるべきである。しかしながら、この裁量は、前記懲戒処分の目的に照らし、不必要に苛酷なものであつたりしてはならず、社会通念に照らして合理性を有するものでなければならない。
(2) そこで、本件懲戒処分が合理的裁量に基づかないといえるかどうかについて検討することとする。
(イ) 本件争議行為の目的
成立に争いのない甲第二号証の一、二、同第三号証の一、二、同第四、五号証、証人伊藤嘉太郎の証言により成立の認められる甲第八号証、証人伊藤嘉太郎及び同木下勝平の各証言によれば、本件争議行為は原告ら国有林野事業に従事する職員の賃金引上げを主たる目的として行なわれたものであることが認められ、いわゆる政治ストライキであるとも、スケジユール闘争であつたとも認められない。
(ロ) 本件争議行為の規模、態様及び原告らの役割
本件争議行為は、甲府営林署に勤務する合計一四三名の職員(いわゆる定員外職員を含む。)のうち、南部担当区事務所及び片房沢製品事業所に勤務するいわゆる定員内職員二名(第一原告ら)及び定員外職員三一名(第二原告ら)の合計三三名によつて行なわれたものであり、参加者の職種は製品生産関係及び造林関係に限られていたことは当事者間に争いがなく、原告ら各自の職務放棄の時間が始業時から二時間をやや上回る程度であつたことは前記のとおりである。
また、証人木下勝平及び同保坂住男の各証言、検証の結果並びに弁論の全趣旨をあわせると、原告らの中には当時の甲府分会の執行委員が含まれてはいるが、本件争議行為は東京地本の直接指導によつて行なわれ、甲府分会は本件争議行為の指導に一切関与していないこと、したがつて原告らはいずれも本件争議行為のいわゆる単純参加者であつて、本件争議行為について何ら指導的役割を果していないこと、本件争議行為は単純な職務放棄であつて暴力などは一切伴なつていないこと、原告らは争議に参加しないで始業時から各自の職務に従事していた他の職員の業務を直接妨害するようなことを一切しなかつたこと、以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。
(ハ) 本件争議行為の影響
本件争議行為は、(ロ)記載の規模、態様でしかも二時間をやや上回る程度の短時間行なわれたものであることは先に述べたとおりである。
そして、成立に争いのない乙第二六、二七号証、調査嘱託に対する回答(昭和四九年九月四日付のもの)、証人保坂住男、同川合勇の各証言、原告氏原今朝吉の本人尋問の結果と弁論の全趣旨をあわせると、各営林署における業務は、営林署業務計画(各営林署における五年間の業務計画を定めているもので、毎年度作成される。)の初年度分に基づき毎年度作成される各種予定簿(収穫、製品生産、販売等一一項目について作成される。)により一年間を単位として行なわれていること、原告らの本件争議行為にもかかわらず抗弁六1(一)、(二)各記載の原告らが当日従事する予定であつた業務のうち、伐木(全幹伐倒)に関しては予定数量を超える数量が能率よく実行されていること(なお、実行期間が予定より長くなつているが、これが本件争議行為の影響によるものとは認められない。)、集材に関しても予定期間内に予定数量が能率よく実行されていること、また抗弁六1(三)記載の原告らが当日従事する予定であつた鉄骨盤台撤去作業も予定期間(約一週間)内に遅滞なく行なわれていること、抗弁六1(四)記載の原告らが当日従事する予定であつた新植業務も予定より能率よく行なわれていること(なお、実行期間が予定より半月ほど長くなつているが、本件争議行為の影響によるものとは認められない。)、さらに抗弁六1(五)記載の原告らが当日従事する予定であつた補植業務についてもその予定数量は完全に実行されていることを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。そして、右の事実から、甲府営林署における他の業務についての業務計画にも本件争議行為の影響はほとんどなかつたことを推認できるが、他の業務(すなわちトラツク運材)と直接関連する前記の伐木、集材業務の本件争議行為による一時的な停滞の右トラツク運材への影響をみると、原告氏原今朝吉の本人尋問の結果によれば、盤台には常時一日分の木材が積まれていたことが認められ、この事実からすると当日の運材についても本件争議行為の影響はほとんどなかつたことを推認できる。
(ニ) 本件争議行為の背景
本件争議行為当時は、いまだ最高裁判所昭和四三年(あ)第二七八〇号国家公務員法違反被告事件についての同四八年四月二五日の大法廷判決(いわゆる四・二五判決、最高裁判所刑事判例集二七巻四号五四七頁以下)がなされる前であつて、最高裁判所昭和四一年(あ)第四〇一号地方公務員法違反被告事件(いわゆる都教組事件)についての同四四年四月二日の大法廷判決(最高裁判所刑事判例集二三巻五号三〇五頁以下)が判例として重きをなしていたが、右判決によれば、公務員ないし公共企業体等の職員の争議行為の違法性の問題につき、具体的な争議行為が場合によつては違法でないと判断される余地があると解されていたことは周知のとおりである。そこで、原告らが、争議に参加するにあたり、当日予定されていた始業時からの半日ストライキが行なわれても裁判所により違法でないと判断されるのではないかという期待をもつたとしても故なしとしえない。このことは、当時原告らが本件争議に参加したことについて、原告らを強く非難できない事情であるといつてよいであろう。
(ホ) その後の争議行為と懲戒処分
以上の(イ)ないし(ニ)の事情があるにもかかわらず、前記のとおり被告らは原告らを本件懲戒処分に付したのである。ところが、成立に争いのない甲第四九号証、証人川合勇の証言、原告氏原今朝吉、同石原明の各本人尋問の結果によれば、その後行なわれた昭和四八年の春闘における全林野の全一日二回、半日一回を含む五回にわたる東京営林局管内の全職場でのストライキに関し、昭和四九年一月二六日付で関係者に懲戒処分がなされたが、単純参加者には懲戒処分はなされなかつたこと、また昭和五〇年六月四日には同四八年秋から同五〇年の春闘にかけての全林野の一〇回余りにわたる東京営林局管内の全職場でのストライキに関し、関係者に懲戒処分がなされたが、単純参加者に対してはやはり懲戒処分はなされなかつたことが認められる。このことは、単純参加者に対しては国公法上の懲戒処分を課すことまでのことをしなくとも公務員法上の秩序維持ができないわけでもなかつたことを推認させるといわなければならない。
(ヘ) 被告らの主張立証
前記(イ)ないし(ホ)の事情がある以上、被告らが本件争議行為についてとくに単純参加者たる原告らを懲戒処分に付さなければならないと判断した事情について主張立証をしない限り、本件懲戒処分は合理的裁量に基づかない違法なものと判断するほかはない。
すなわち、前記のように懲戒処分権を発動するかどうか、発動するとしてもいかなる種類の懲戒処分を選択するかは、懲戒権者たる被告らの裁量に委ねられている以上、当初から被告らに対し裁量権行使にあたりどのような事情を考慮したかについての主張立証を求めることは当を得ていないにしても、原告らが、被告らの裁量権の行使が合理性を欠くと一応認めさせるような具体的な事情を主張立証した場合には、被告らにおいて裁量権行使にあたり考慮した事情を挙げて、裁量権行使が合理的であることを主張立証する必要が生ずるといわなければならず、右主張立証をしない以上は、裁量権の行使が合理性を欠くとの推定を受けてもやむをえないと考えられるのである。しかるに、本件において、被告らは具体的にいかなる事情を考慮したうえで原告らに対し本件懲戒処分をしたかについて何らの主張立証もしない。
(3) そうすると、結局本件懲戒処分は合理的な裁量に基づかず裁量権を逸脱濫用した違法なものというほかはない。
4 結論
以上のとおりで、本件懲戒処分は違法である。
三 むすび
以上の次第で、原告らの本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。